今月の永田町
岸田政権発足1000日
自ら政治の劣化を招く
「やるやる詐欺」と批判も
岸田文雄首相は6月末で政権発足から1000日を迎えた。長期政権とされる節目となるが、決して安定飛行を続けているのではなく、岸田首相自ら政治の劣化を招いている。政治の要諦は「信なくば立たず」だが、世論支持率は過去最低と低迷し、野党から「やるやる詐欺だ」と批判され、自民内からも「首相退陣要求」が出てきた。首相は秋の総裁選を念頭に反転攻勢できるのかが注目されている。
第100代内閣総理大臣による岸田政権が誕生したのは令和3(2021)年10月4日だった。この日、首相は記者会見で衆議院の解散を10日後に行うと表明。戦後最短だった鳩山一郎首相の46日後の記録を更新するなど「電光石火の決断」をし、「お祝儀相場」に乗って261議席を獲得、公明党との連立で絶対安定多数を確保した。滑り出しはほぼ好調で得意の外交でも得点を重ねた。
ところが、岸田政権の歯車が狂い始めたのが、22年7月の参議院議員選挙だった。これに勝利しさえすれば、今後衆議院の任期満了まで解散がなければ、25年までの3年間、全国規模の国政選挙がなく「黄金の3年」が訪れ、岸田政権にとって政策を実現しやすい絶好の環境が生まれるとされていた。
選挙結果は確かに、自民63、公明13の計76議席で非改選と合わせて前回より7議席増やしただけでなく、憲法改正に前向きな日本維新の会と国民民主党と合わせて改正原案の発議に必要な3分の2以上を獲得し大勝した。ところが、全く誰も想定していなかったのが投票日直前に起きた安倍晋三元首相の暗殺事件だった。
「安倍氏という有力な後ろ盾を失った岸田首相が漂流し始めたのはその頃からだった」と自民党中堅幹部は指摘する。同幹部は、「安倍氏狙撃犯を生んだ宗教法人・旧統一教会が、安倍氏や安倍派議員と極めて近い関係にあり影響力を持っていたというマスコミ情報を鵜呑みにした。そのため、自民党は旧統一教会と関係を断絶すると宣言して安倍派潰しに利用しようとした。だが、逆に周辺閣僚らに旧統一教会と近い関係の安倍派以外の議員も多く、次々と閣僚や党幹部を交代せざるを得なくなり政権の足腰を弱めたのだ」と解説する。
さらに政権を揺さぶったのが、今国会で最大のテーマとなった安倍派、二階派による派閥の政治資金パーティー収入不記載問題による裏金疑惑の発覚だ。マスコミや野党から批判の嵐にさらされ、対応に窮した首相は事前に根回しをせずにすべての派閥に解消を求めるなど筋違いな指示を出して批判をかわそうと懸命になった。
自民党本部職員はこう話す。
「人材育成の機能を果たしてきた面もある派閥のどこが悪いのか。裏金疑惑の真相もはっきりしないのに処分の基準を作って疑惑議員39人に『党員の資格停止』『党の役職停止』などの処分を下し、一方的に悪者にしてしまった。ところが、自分の派閥の宏池会の会計責任者が告発されながら当時会長だった首相自らの処分は見送った。そして『政治資金の透明性を図るために』という大義の下、規正法改正を今国会で実現するとアピールすることで、裏金疑惑への目をそらそうとした。ここには真摯な対応がない。保身、延命のためなら妥協でも何でもする首相に成り下がってしまった」
政治資金規正法改正に向けた法案作成プロセスにおいても、改正実現を最優先にして手練手管を弄したことがかえって政治不信を強めている。自民党は公明党、日本維新の会の賛成を得るため両党の要請を丸呑みして、①パーティー券購入者名の公開基準額を現行の「20万円超」から「5万円超」に引き下げる②政党から議員個人に支給される政策活動費に関しては年間支出の上限額を定め、10年後に領収書などを公開する③政治資金を監督する第三者機関の設置する──ことなどを盛り込んだ最終案を作成した。
ところが、岸田首相が党内意見の調整を行わずに「5万円超」に引き下げたことに党内から不満が噴出。衆院での採決では、3党などの賛成多数で6月6日、可決されたが、参院では、維新が調査研究広報滞在費(旧文書通信交通滞在費)の改革に関して使途公開と残金返納を義務付ける立法措置を講ずるとした自民との党首合意について、自民が消極的発言を繰り返していることから「ほごにするなら(規正法改正案への)賛成はあり得ない。内閣不信任決議案でも厳しい姿勢で臨む」とカンカンに。結果として、維新は参院では反対に回ったのである。
今国会は「政治とカネ」の問題に事実上〝支配〟され、国家主権の危機対策やG7サミットの検証などについて議論を深める時間の余裕がなかった。19日の党首討論で立憲民主の泉代表に対して、改憲論議を進めることに抵抗するなど不誠実な対応をしてきたなどと非難したが、「総理在任中に実現する」との公約達成は、困難になった。首相が本気なら国会の会期を延長するか、閉会中審査をしてでも改憲案作りに汗を流すだろうが「保守層離れを食い止めようと試みただけだったに違いない」(全国紙政治部記者)。
こうした岸田政治について国民民主党の玉木雄一郎代表は「期限の迫った話に対して、きちんと結論を出すことができない。その統治能力のなさを、今回の憲法改正が全く進まない状況が象徴している。やるやる詐欺だ。やる気なし、戦略なし、スケジュールなしだ」と指摘するが、正鵠を射ている。
1000日を突破し、長期政権を築いて歴史に名を残した小泉純一郎氏(1980日)、安倍晋三氏(3188日)はそれぞれ、郵政民営化や教育基本法改正・集団的自衛権の行使を可能にした安全保障関連法制定などをやり抜いた。しかし、岸田首相には特段の成果が見当たらない。むしろ、社会を混乱させるLGBT理解増進法の成立に意欲を燃やし、安倍長期政権が培ってきた保守岩盤層を崩して自民党を弱体化させ、政治への信頼を損ね劣化を招いており、反転攻勢の足掛かりを見い出すことは難しいのが実状である。