ペマ・ギャルポのアジア時評

万里の長城は領土防御壁だったが新長城には「中国の赤い野心」が

日本の皆さんは中国に対して、「広大な領土を有する五千年以上の歴史を誇る国である」と幻想を抱いている。実際は、今の中国領土の63%は中国が戦後、侵略した領土であり、歴史的にはあの広大な領土というのはわずか1950年代以降、中国が物理的に侵略し支配したのにすぎない。

現に、日本はかつてシナ大陸で日清戦争を戦ったが、我らチベット人や東トルキスタンの人々はこの戦争には加
担していない。「中国五千年の歴史」というのも、中国の文献による捏造と虚言によるものであって、中国は24回も王朝が変わっている。歴史上においては、むしろ我ら西や北の民族が中国を侵略し、傀儡政権をつくった事実もある。ましてや、「中国」という名前は、1911年、辛亥革命以後の名称であって、それまで広大な中国という国は存在しなかった。その証拠に、中国の資料によれば、中国は7世紀から明朝時代にかけて、2万1196㌔㍍に及ぶあの長い万里の長城をつくったのは他国の侵略からの防衛手段のためであり、その目的を果たすために労力と大金を費やしてつくったものだ、とある。しかし、その万里の長城を越えて侵略したのは中国であり、さらに、中国は新たな鉄とコンクリートの長城をヒマラヤ領域から築いている。そして、海においても新たな領域をつくろうとしている。
ヒマラヤ地域においては、私が世界日報の10月29日号に書き下ろしたものを少し長いが、引用させてもらいたい。

中国はヒマラヤ山脈の聖地において有刺鉄線とコンクリートの城壁を築き、柵を一方的に設置した。世界で最も孤立した場所の一つである所に、中国は防犯カメラの監視塔を建て、武装した兵士を配置した。また、チベットの高原地の丘の斜面に、180㍍の長さの「中国共産党万歳」というメッセージを書いた横断幕を張ったのである。また、この周辺の住民はチベット系ネパール人であり、彼らの家庭においてダライ・ラマ法王の肖像画が仏壇に飾られていることに対して中国側は取り締まろうと圧力をかけた。さらに、かつてはこのルートを使って千人単位のチベットの人たちが中国の弾圧から逃れ、ネパールに密かに逃げてきたが、最近はほぼそのようなことは消えてしまったと、現地の人たちからの情報がある。そして、これらのことをネパール政府に訴えようとした住民たちの指導者はその職を失ったという。

これらの問題に対して、2011年、ネパール政府の調査団が中国の国境侵害についてレポートを政府に提出しているのにもかかわらず、その文章そのものがどこかに消えて、政府高官でさえも見ることができなくなったと言われている。「これは中国の新しい万里の長城だという認識を持ってその
深刻な状態を訴えても、経済的にも中国に依存度が高くなったネパール政府は認めようとしない」と、調査団関係者は悲しみを込めて外国のメディアに訴えている。同様のことがインド国境付近やブータン国境付近でも行われている。最近、チベット本土を訪ねた海外在住のチベット人によると、インドとの国境ならびにブータンの国境付近には、中国が新たな団地を建設し、そこに遊牧民を定住させ、彼らの生活圏を奪い、彼らの土地には逆に中国人が移住し、周辺の地下資源を民間ではなく国家が発掘し始めているという。これらの団地には立派で近代的なビルを建て、ネパールやブータン、インド側の住民が羨むような近代的な都市を築こうとしている。中国の領土拡張は陸ばかりではなく海でも、フィリピンやベトナムなどとの係争中の島々においても既成事実をつくり、海の万里の長城を築こうとしている。

なお、海に関しては、中国はさらにかつては謙虚に、「第一列島線まで自己の防衛線において核心的利益がある」と言っていたのが、今では南シナ海、東シナ海に人工島などをつくり、主権国の国々の漁船を強制的に排除して、伊豆諸島・小笠原諸島を含む日本の領海、フィリピンの領海、ベトナムの領海などインドシナの国の一部の主権を無視している。また、事実上の主権国家である台湾をも自国の領土であると言い、日本の尖閣諸島などは台湾省の尖閣諸島だと堂々と主張している。まさに、中国はここに「海の新たな大万里の長城」を築こうとしている。

かつて2016年、国際的に尊重されている法律専門家たちによって、中国に対するフィリピンの上訴に対し、ほぼフィリピン側の主張を認める判断が下された。それに対し中国は、それを紙クズだと言って無視した経緯がある。いみじくも、今、マルコス大統領のもと、フィリピンは精一杯抵抗しているし、10月に誕生したインドネシアのプラボウォ大統領も、フィリピン同様に抵抗し始めている。

残念ながら、日本は憲法上の制約などを受けて、中国に対し口頭で抗議する範囲で甘んじている。今回の日本の総選挙によって政権が軟弱になったことによって、中国は今後ますます図に乗ってくる可能性が大きいと私は懸念している。例えば、中国は10月、日本の総裁選挙やアメリカの大統領選挙などで日米の国内が混沌としている最中に、台湾を恐喝するような大規模演習を行った。

日本のマスコミはあたかも、台湾総統の発言が中国を挑発したような報道をしているが、私はそうではなく、中国が得意とする火事場泥棒的な行為にすぎないと信ずる。かつての中国の万里の長城は、中国を守るための防御壁であったのに対し、新しい中国の長城は、他の主権国の領土・領海を奪うための拡張主義、覇権主義の証と見るべきだと考えており、これらの周辺の国々が、我がチベットや東トルキスタン、南モンゴルの二の舞いにならないことを切に願い、眠りから目が覚めるべきだと警鐘を鳴らしたい。