日本学術会議人事で舌戦

自民内に強まる大幅縮小論

菅首相「国民から理解される活動を」
野党は「学問の自由侵される」と批判

日本学術会議の会員候補6人の任命を菅義偉首相が拒否した問題をめぐり、菅首相と野党との舌戦が続いている。共産党をはじめとする野党は「憲法の保障する学問の自由が侵される」と批判。一方、菅義偉首相は「政府の機関であり国の予算を使って行動している。国民から理解される活動をすべきだ」と反撃し一歩も引かない。自民党内からは「学問の自由を侵してきたのは学術会議の方だ。国の機関である以上、行政改革の対象として大幅に縮小すべきである」との声が強まっている。

携帯料金の値下げ、NHK改革など既得権益にメスを入れることを優先課題に打ち出している菅首相が、内閣府に属する日本学術会議の改革にも着手した。
学術会議は終戦から4年後の1949年、内閣総理大臣所轄下に設立された。「経費は国の予算で負担されるが、職務は独立して行われる」(日本学術会議法)とされ、国の予算を使いながら政府に反対する声明や見解を主張してきた。例えば、50年、67年、2017年には軍事研究禁止宣言を出した。それにより自衛隊艦船のコスト削減研究などを行わせず、国民の生命と財産を守る防衛にクレームを付け、事実上、学問の自由を侵害し続けてきたのである。
また、1952年の破壊活動防止法反対声明を出したことなどからも、学術会議が「日本共産党の浸透工作が設立当初から行われ奏功してきた」(政府関係者)との見方が強い。今回、菅首相の任命拒否をスクープし非難の声を真っ先に上げたのも一般紙ではない共産党機関紙の「しんぶん赤旗」(10月1日付)だった。
菅首相が任命拒否した6人は、いずれも安倍政権が政権の命運を掛けてまで成立を期した安全保障関連法案や特定秘密保護法案に反対。共産党政治理論誌「前衛」の執筆者や共産党系団体の元理事もいる。とても「わが国の科学者の内外に対する代表機関」のメンバーになるのに相応しくない政治的に偏った面々ばかりである。
ところが、朝日新聞や東京新聞などは「学問の自由 脅かす暴挙」「学問の萎縮を生みかねない大問題」などと〝後
方支援〟。共産党の小池晃書記局長は「学問の自由、法治国家としての在り方にもかかわってくる重大な問題だ」と主張。立憲民主党の枝野幸男代表も「任命拒否は明らかに違法だ」などと菅首相を追及した。
これに対して、菅首相は10月5日、「それぞれの時代の制度の中で法律に基づいて任命を行っているという考え方は変わっていない」とし、関係法令に照らして問題はないとの認識を表明。過去の省庁再編の論議の際に日本学術会議の必要性や在り方が議論されてきたと指摘しつつ、「退任する会員が後任を指名することが可能な仕組みだ。推薦された方をそのまま任命してきた前例を踏襲して良いのか考えた」と語った。
菅首相は10日、さらに「国の機関だから、河野太郎行政改革担当相が行革の視点で見直しを行うことは、ある意味で当然のことではないか」と強調。河野行革担当相も「内閣府の事務局の機構・定員と予算の観点から見ていきたい」と述べ、行革の対象として在り方の見直しをする意向を示した。
常勤職員の約50人は現在、内閣府など中央省庁の官僚ですべて占められている。これを民間委託によって業務効率化を進めれば、予算の削減につながる。学術会議の2020年度予算は10億4896万円。事務局人件費が4億3380万円で、4割以上と最も多い。政府や社会に提言するための活動費が2億5200万円で、会員(210人)への手当(日当)は計7192万円だ。「事務局員数を減らし、民間人を起用すれば効果がある」と自民党職員は語る。河野担当相は予算執行をチェックする「秋の行政事業レビュー」を11月中旬に実施した上で年末の予算編成に反映させる考えだ。
他方、自民党も「日本学術会議」の問題を重視し、組織の在り方を検討するプロジェクトチーム(PT)を結成。21日に大西隆氏ら同会議の会長経験者3人から意見を聴取した。大西氏は菅首相が会員候補6人の任命を拒否したことについて、「(会議が人選を)独立して行うことが非常に重要だ」と主張。その一方で「学者が独立して提言を発する機関が国の信頼を得るために重要だ」と訴えた。
しかし出席者からは疑問が噴出。「会員の推薦過程は妥当か」「国がサポートするのは分かるが、国の機関でなければいけないのか」「会員を国家公務員にする必要があるのか」などの質問が相次いだ。これに対して元会長側は、学術会議が内閣府の所管であることは国の決定だと述べつつも、会員が国家公務員になる「必要性を感じたことはない」と語った。PTの塩谷立座長は、学術会議の民営化について「選択肢の一つ」と語った。
こうした議論が進むことについて野党側は「6人拒否の説明がなされていない」「学問の自由という論点をそらして組織の在り方論にすり替えている」などと反発。立憲民主党の安住淳国対委員長は「政治権力が学問の自由に介入した」ことが問題なのだと非難している。
だが、「会員の任命と学問の自由とは無関係。学問の自由を侵してきたのも学術会議ではないか」(自民党幹部)との声は政府自民党内に多い。行政改革の断行、既得権益の打破を掲げ「国民のために働く内閣」と銘打つ菅首相には野党の批判は効き目無しのようだ。衆院の解散総選挙への環境づくりのためにも、「無駄を省け」の号令は大きくなることはあっても小さくなることはない。