ピューマ渡久地ジム所属 元WBCアジアスーパーウェルター級王者

コブラ諏訪氏に聞く

勝者のみが報われる

──少年時代からボクサー志願?
いや、僕が始めたのは21ぐらいからだ。ボクシングジムに通うようになったのは、友達がプロボクサーになったことで刺激を受けたからだ。それがたまたま近場のピューマ渡久地ジムだった。渡久地会長にお会いしたのもその時で、かれこれ20年になる。

──途中でやめたいと思うことは。
それは何回もそういう時期はあった。

──自分でその都度、克服してきた?
自分で克服したのというのは少しだ。多くは会長から何回かチャンスをいただいたことで、やれたのかなと思う。

──チャンスと言うのは?
試合を組んでもらった。

──試合が入ると、闘争本能にスイッチが入る?
そうだ。目標ができるとそれに向かって走ることになるから、生活は充実してくる。
リングの上での栄光は、この練習時の濃密度にかかっている。

──勝ちパターンとか、勝利の方程式はあるのか?
地味だけどボディーが入ると大体、僕の流れになる。
ボディブローが効いてくると、相手の動きが止まる。

──日頃の練習は、どういったメニュー?
練習ですか。
朝、5時ぐらいに起きてまず手始めに走る。
距離は日によって違うがほぼ10キロ、長い時は15キロ程度だ。

──体調をみながら走り方を変える?
その時、その時で走り方が違う。
ダッシュが多かったり、長い走りで有酸素運動をしたりといろいろだ。
ダッシュでは筋肉のパワーが身につき、瞬発力とか心肺能力の向上が図れる。
試合で必要なのがスタミナだから、持久力が身につくロングランも欠かせない。
総合的に見ながら、自分のメニューを決めていく。

──それはマネージャーが決めるのではなく?
長いキャリアなので、自分で考えて決めている。

──試合の日に合わせ、体を仕上げていくと思うのだが、試合が決まると大体、どのくらい前から体を作っていくのか?
日頃の練習がものをいうのは、どの格闘技でも同じだが、大体、2、3カ月前から本格的な体づくりに入っていく。
いつ試合が決まってもいいように、日常の練習は欠かすことはない。強弱はあるが、それが基本だ。
ベースは朝の走りから、その後、ジムでロープ(縄跳び)を跳んだり、サウンドバッグを叩いたり、シャドーボクシングをしたり、たまにスパーリングもある。

──ロープはどの程度?
大体、3、4ラウンド。

──1ラウンドというのは3分?
そうだ。
試合時間の1ラウンドを、日ごろから体になじませておく必要がある。
タイマーをかけて、他の練習も1ラウンドの時間単位が基本となっている。
休憩して、また1ランド跳んでというのを繰り返すことで、1ランドの体内時計を作っていくのと同時に、3分の運動と1分の休憩といったリズムで体のパフォーマンスをよくしていくことで、試合時の動きをよくし、休憩時のリカバリー力を上げていく。
それを20年間、ずっとやってきた。

──これからの目標は?
今、試合から離れているが、ジムが運営している麻布十番でクライオセラピーの店長をやっている。
クライオセラピーというのは、液体窒素などの冷却材を用いて極冷却空間(マイナス150℃~マイナス120℃)を作り出し、低温環境によって引き起こされる身体反応に基づくトリートメントのひとつ。わずか2~3分間の短時間冷却で効率的なメンテナンスが可能とされ、スポーツ分野や美容分野でも活用されている。

──海外での認知度は?
ここ数年、世界の一流のアスリートやプロスポーツマンが、クライオセラピーを使うようになってきた。
自分も、現役時代のの後半はクライオセラピーのお陰でやり続けられた。日本ではまだそんなに広まっていないが、既に金メダリストとかプロゴルファーとかサッカー選手などが利用している。
クライオセラピーは1978年、日本でリュウマチの治療のために開発されたが、昔は冷やすということが認知されなかったので、欧米でまず評価され、日本に逆輸入されるという経緯となっている。

──欧州の印象派に影響を与えた浮世絵が、日本で再評価されたような話だ。
そうだ。早すぎたというのもある。

──座右銘は。
「勝者のみが報われる」
そもそもネイビーシールズ(米海軍特殊部隊)の言葉だ。
特殊部隊なので、とても厳しい訓練が科せられる。その訓練のモットーが、「勝者のみが報われる」で1位のみが椅子に座って休憩でき、2番は負けの1番でしかない。
それがボクシングに通じるものがあった。
プロボクサーの世界は、負けたら何もない世界。負けを知っているからこそ、明日はないという気持ちでずっとやってきた。
勝たなければ、どんなにつらい練習をしても厳しい減量をしても、流した汗も涙もすべてが報われない。

──ボクシングというのは一発のパンチで天国の門を開けたりもできれば、地獄の底に落ちる。そうしたシビアな世界に20年も生きてきた。心掛けてきたことは?
ダウンしないこと。
倒れないこと。
ジムの看板を背負ってるつもりでやってきた。
KO負けはしないという意気込みはずっと持ち続けてきた。

──KO負けはこれまでなかった?
一度もない。

──どんなボクサーもKO負けはしたくないと思うのだろうけど、実際に一度もないというのは?
パンチを受けて効いたことはあるが、決して倒れなかった。倒れないという強い気持ちだけは持ち続けてきた。

──まだ朝のランニングは続けている?
前のような10キロ、15キロといった長い距離はなくなったけど、ロードワークという習慣だけは続けている。
試合はなくても走るということは、日課になっている。

──走らないと朝、起きた気がしないとか?
そうだ。
歯磨きをしていない、そういう感覚だ。

──元旦でも?
そうだ。毎年、よく走る。
誰もいない商店街とか走ると、爽快感がある。

──これからは試合よりもビジネスのリングに上がる?
今、こうして、ダメージなく現役を20年も続けられたことに感謝している。
最後の試合は地球の裏側のドミニカ共和国で、周りに支えられ、日本人初のカリビアンタイトルまで獲得できた。
ボクシングの世界チャンピオンにはなれなかったけど、今度は闘う舞台が変わった。
現役時代を支えてもらえたクライオセラピーで新たな世界チャンピオンを目指していく。

コブラ諏訪

コブラ諏訪はリングネーム、本名は諏訪雅幸。1980年6月9日東京都港区生まれ。趣味は射撃や映画鑑賞。平成22年5月、東宝系で全国公開された映画「ボックス!」に主演の市原隼人さん演じるカブの宿命のライバル「稲村和明」役で出演。特技は足が速い。

コブラ諏訪