自公の蜜月関係に変化も
勝てば「黄金の3年」確保
政権の行方左右する参院選
今年7月に行われる参議院選挙は、岸田文雄政権の実績が初めて評価されるとともに、政権の行方を左右するといっても過言でない重大な国政選挙だ。岸田首相は勝敗ラインを「与党で過半数」とするが、勝利すれば政権基盤が固まり〝黄金の3年間〟を手にして長期政権の足掛かりを得ることになる。敗北すれば責任を問う声が強まり、衆参両院のネジレ対策に時間と労力を費やし政権の求心力は急速に弱まることにつながろう。
参院選は、衆院選と異なり政権選択選挙ではないため政権交代はないが、敗北して首相が引責辞任するケースはあった。橋本龍太郎首相(当時)は1998年の参院選で、当初の予想を大幅に下回り引責辞任した。2007年の参院選では、安倍晋三首相(当時)が歴史的大敗を喫し与党が過半数割れした。首相を続投したものの党内から公然と辞任要求が出るなどし、「健康上の理由から」と釈明して退陣したが、事実上、敗北という結果が辞任に追い込んだものと見られている。
「岸田政権も例外ではない。新型コロナウイルスへの対応で失敗すれば敗北する可能性は否定できない。逆に、コロナ対策の成功は岸田政権の長期化に直結するのだ」と自民党幹部は語る。そのこともあり、岸田首相は年頭の記者会見で新型コロナウイルス「オミクロン株」感染の急拡大という〝国難〟に対処する司令塔として「万全を期す」との決意を表明したのである。
現在のところ、岸田政権に対する世論の支持率は高く、日テレ・読売新聞の1月調査では66%にまで上昇している。他社の調査でも上昇傾向にある。菅義偉前政権の発足当初に歴代3位の高さ、と言われた支持率とほぼ同じ高さになってきた。「この勢いを持続し感染数減少などの結果を出していけば参院選で負けることはないだろう」(同)と見る向きが多い。
他方、公明党との選挙協力の具体的な進展状況を見ると、昨年までの自民、公明の蜜月関係に変化が起きている。選挙区7議席、比例代表7議席、800万票を目標に掲げる公明だが、32の改選1人区を中心に自民候補者への推薦見送りを検討。また、公明が候補を擁立する複数区についても、自民側に推薦を求めない方向だ。前回の2019年参院選では相互推薦の方針について18年12月に合意した。今後の調整次第で変更はあり得るだろうが、自民離れの傾向はあるようだ。
「それを象徴しているのが、両党のパイプ役となってきた菅義偉さんと選挙実務を取り仕切り創価学会の政治部長と言われてきた佐藤浩副会長との『SSライン』が機能しなくなったことだろう」と政界関係者は指摘する。菅氏は官房長官時代から佐藤氏と関係が深まり、創価学会と関係の薄かった安倍首相に代わって関係を築いてきた。ところが、佐藤氏が「定年退職」を理由に第一線を退いた昨春から自公関係が微妙に変化。菅氏も首相の座を去って両党の絆は弱まりつつあるというわけだ。
「岸田政権は今年、敵基地攻撃能力の保有や憲法改正などの議論を積極的に行う見通しだ。公明、創価学会はもうそろそろ、タカ派的な議論に付いていけなくなっている。自民とは距離感を持って対処していくべきだとの声が学会内の婦人部を中心に高まっているようだ」(同)という。
ただ、昨年実施した衆院選比例代表の投票結果に基づき、今年の参院選選挙区の各党の獲得議席数を時事通信が試算したところによると、勝敗の鍵を握る改選定数1の1人区32のうち、自民、公明の与党が30勝し、野党は2議席にとどまった。試算は、野党を立憲民主、共産、国民民主、れいわ新選組、社民5党の候補者一本化を前提にし、さらに日本維新の会も加えた3勢力の構図としたものだ。改選定数2以上の複数区も含めた全選挙区(74議席)の試算でも、与党が51議席を獲得し、野党の20議席を大きく引き離す結果となった。自公連携がウィンウィンの関係にあるのは両党の一致した見解だ。
岸田首相は6日収録のテレビ番組で参院選に関し「安定した政治、安定政権があってこそ難しい重要な課題に結果を残すことができると思う。なんとしても勝たなければならない」と強調。5日には都内で開催された連合の新年交歓会に出席、「政治の安定という観点から与党にも理解と協力を心からお願いする」と呼び掛けた。現職首相の同会への参加は2013年の安倍晋三氏以来9年ぶり。岸田首相は、芳野友子・連合会長を首相の看板政策を議論する新しい資本主義実現会議のメンバーにも引き入れた。立憲民主、国民民主の支持母体にまで手を突っ込んでいるのだ。
岸田首相が参院選を無難に乗り越えれば、その後3年間は国政選挙がないため自らの政策実現にまい進できる。「黄金の3年間」と言われる由縁だ。自民党役員の任期も「1期1年、連続3期まで」と変更したことから、参院選後の党人事をめぐり求心力をアップできる。衆院解散のカードも手にしながら政権運営に臨め、長期政権への道が開けることになろう。
一方、野党第一党・立憲民主の泉健太代表は「全ての選挙区に候補者を立て、改選対象の現有23議席から上積みを目指す」考えだ。しかし、衆院選で見せた共闘をめぐって共産党との間で評価に開きがあり、候補者調整は進んでいない。連合からは共産との離縁要求を突き付けられているが、態度はあいまいなままだ。
また、共産との共闘に組みしない国民民主は、小池百合子都知事が特別顧問を務める地域政党「都民ファーストの会」との選挙協力の検討を始め、合流も視野に入れるなど別の方向を向いている。一時は全国政党を目指すとする日本維新の会との連携も模索したが、維新は「二大政党の一翼を担うような組織をつくっていく」(松井一郎代表)とし、定員が複数の選挙区で積極的に擁立する方針だ。こうしたことから、昨年の衆院選で見せた野党共闘の再構築は容易ではないものと見られる。