拉致問題は今のままだと百年たっても解決しない

前復興大臣・衆議院議員

平沢勝栄氏に聞く

ウクライナ危機は対岸の火事ではなく、東アジアでも台湾を狙う中国、核を手にする北朝鮮といった安全保障上のリスクが存在する。とりわけ北朝鮮の日本人拉致問題では、小泉元首相の訪朝以後、全く動いていない。東アジアの安全保障問題を軸に、前復興大臣の平沢勝栄衆議院議員に聞いた。
(聞き手=徳田ひとみ本誌論説委員)

──北朝鮮の拉致問題でも先生のご活躍を伺っております。日朝関係は膠着状態が続いたままですがこれを打開し、拉致問題を解決するにはどうすればいいのでしょうか?
はっきり言えば、今のやり方を続けていたら、残念ながらいつまでたっても拉致問題は解決しないのでないか。
もちろん、けしからんのは北朝鮮であることは百も承知の上だが、結果を出すためにはじっくり相手に向き合うことを考えなければいけない。
この問題は警察でいうと人質事件のようなものだ。人質事件の時に、犯人に対しすぐ釈放しろ、といった要求をぶつけることは全く正しいことだけれど、それだけでは事件は解決しない。
人質事件を起こし、建物に立てこもった犯人がいう要求はできるだけ受け入れ、相手を納得させ、全てはそこから始まる。
何も解決もしない段階で、こちらの要求だけ言っているのは、100%正しい主張だが事態は動かない。いくら正しくても事態が動かなければ全く意味がない。

──交渉術が問われてくる。
解決することを最優先しないといけない。
北に残った日本人を一日も早く帰国させるには1歩後退しても2歩前進すればいいとすべきではないか。
小泉訪朝から今年で20年経つが、あれから全然動いていない。
これからも動く見通しがあればいいけど、これからも動く気配は見られない。こんなことをいつまでもやっているのかと思う。
政治家の中には私と同じ考え方をする人もいるが、拉致問題では一種のタブーみたいなものがあって、それに触れるような発言をすると北朝鮮の片棒を担ぐのかと非難される。
そうじゃなくて、最終的に解決するには日本として何をしたらよいかを真剣に考えるべきだ。
今のままでいいわけがない。

──マスコミや外野席がうるさい。
マスコミは政治家の言葉尻を捕まえて、怪しからんというけど、とにかく正しいことを言うだけでなく、結果を出すことを考えるべきだ。まずは当局を信じて任せること、それが肝要だ。民間人がマスコミを含めて、こうしろああしろと、後ろからいろいろ言うのは如何なものか。それでは当局は動きがとれず何にもできないだろう。

──船頭多くして船山に登る?
これまで、ずっとそれが続いてきた。

──ご家族の方は歯がゆいでしょうね。
周りはあまり言わない方がいい。ああしろこうしろといったことは言わず、政府・外務省には頑張ってほしいとだけ言えばいい。
周囲がいろいろ言うと、当局は、それに振り回される。当局にしてもそれを無視して断行して失敗すると、世間から袋叩きの火だるまにされかねない。従って、火中の栗を拾う勇気どころか、事なかれ主義に流れてしまうことになる。
いずれにしても時間はなく、早く解決しないといけない。
やり方はいろいろあるが、百点満点をとろうとして零点を取り続けるのか。20点、30点を積み上げていくのか。一度に百点をとれればそれに越したことはないが、現実はそう甘くない。
これまで百点かゼロ点かできて、0点を続けている。そうだったならば、20、30点を積み重ねていくやり方に転じることも考えるべきだ。
ゴルフで言えば、ホールインワンを狙うより、アイアンで刻んでいくやり方だ。

──鈴木宗男先生が2島返還までこぎつけられたが、その後やっぱり4島返還だということでひっくり返され「残念だった」と同じようなことを言っておられました。 
最終目標は同じだが、途中のプロセスについてはいろんなやり方がある。その方法についていろいろ口を出されたらやっていけない。
方針が決まらず中が乱れている印象を与えてしまう。だから外部から、余り口出しすべきではないと思う。この問題は、このままいくと時間切れで終わってしまう。そうすれば、事実は歴史の闇に永遠に葬られてしまう。
ともかく最善と思われるものをやってみるべきだ。それで少しでも前進すれば、また次の手を考える。
拉致問題の関係者の中には、北朝鮮は日本が経済制裁すれば明日にも潰れるようなことを言っていた人がいた。だから経済制裁は解決に有効と主張していたが、北朝鮮は中国や他の国が支援するからでしょう、まだ潰れません。
今からでも遅くない。警察もどこでもそうだけど、間違っていると思ったら謙虚になって原点に戻ることが大事だ。

──妙に意地を張るようなことがあってはならない。政治というのは実績が求められる。もっと賢く対応していただければなと思いますね。
この事件は、にわか評論家みたいな人が出てきて、あれこれ言って政府の手足を縛っているところがある。これでは問題は解決しない。

──マスコミの在り方も問われてきます。
その通りだ。

──北朝鮮の後ろ盾になっている中国の問題もあります。その中国は台湾併合を狙っています。これからの日中関係は?
私は後藤田正晴先生の後を受けて、政治家になった。後藤田先生は常々、「中国は大事な国だが、同時に手ごわい国だ。だから、つき合い方は気を付けないといけない。そして仲良くしないといけない」と言ってました。
後藤田先生は政治家を辞めて、最後に日中友好会館の会長をされてお亡くなりになりました。
何年か前、中国で地域の将来を論じるシンポジウムが開かれたことがある。
日本からは長島昭久議員と私が行き、民間からも参加していた。
そこで驚いたのは中国が「国際法は一切、相手にする必要はない」と国際会議の場で堂々と言っていたことだ。
だから私は「今の秩序でこの地域の安全が担保され、世界も成り立っている。その秩序を無視したらどうにもならなくなる。国際法無視などと言っていいのか」と言った。長島氏も同じような発言をして中国側をけん制した。
それに対し中国側は、「今ある国際法というのは、中国が力がない時に大国が中国を無視して勝手に作った法だ。そういう不公平なものを中国が守る必要はさらさらない。もし国際法というなら、今、中国が力を付けてきたのだから、新しい中国のもとで作り直さないといけない。それなら中国は守ります」と言う。
一言でいえば、中国中心の国際法を作らないといけないという考え方だ。
そういうことを国際会議の場で言う。しかも中国側の発言者は中国国際法の学会長や政府関係者だ。
今中国は、それほど暴れていないけど、これから力をつけてきたら分からない。その中国にどう対応するかというのは、大きな課題だ。
これまでは日中友好ということで親しくやってきたが、未来もその延長線にあるわけではない。
それどころか、ウイグルやチベット、香港のように、自分達に従わないところに対しては鞭をあて、従属させる方向に舵を切っている。日本にもそのうち何か働きかけてくる可能性がある。その時に日本はどうするのか考えておいたほうがいい。

──ウクライナとロシアの紛争は歴史的な問題も絡んでますね。
日本は国際社会と無縁でやっていけない。その世界はこれからも大きな対立関係が起こる。日本は当然、米側に立つことになる。一方の中国は逆のところに位置する。当然のこととして日中対立は起こってくる。
日本は中国と握手したままで、進むことはできない。これからの日本の在り方は、抜本的に考え直していく必要があると思う。
ロシアも現状は本来あるべき姿と違うということで、ウクライナに手を出している。それと同じことを中国もやっている。日本についていえば、尖閣に毎日のように中国海警船がやってきているが、尖閣だけでなく、沖縄も自分たちの領土だと主張する中国人もいる。中国政府の高官はまだ公の場で言っていないから、日本では報道されないだけだ。
中国国内のそうした主張もいずれ表に出てくるだろう。
だから領土は絶対に譲ってはいけない。
尖閣を譲れば、次は沖縄の問題になってくる可能性がある。韓国だって、竹島に近い鬱陵島には「竹島は韓国の領土」というスローガンだけでなく、「対馬も韓国の領土」というスローガンがあるそうだ。
ともかく領土は一ミリたりとも譲ってはならないというのが鉄則だ。

──日本国民が思う以上に大変なことですね。
中国にしろ、ロシアにしろ、国に対する思いが強い。日本は残念ながらそれほどではないが、外国ではがらりと様相が異なる。
二階俊博元幹事長がいつも言っていることだが、戦争を防ごうと思ったら、1つの方法として小学生、中学生といった小さい時に、相手国に泊りがけにいって人間関係をどんどん作っていく。そういう形で、仲良くなれば戦争しようとは通常思わない。そういう土壌を広げるようなことも考えていかないと、なかなか難しいといえる。

──並行して。
そうだ。
並行してやっていかないといけない。
そういうことも考えながらやるべきだと思う。

──国際的な友好関係の為には、国際結婚が進むと良いとの意見もあります。民間で仲良くなれば、国家間のいざこざも緩和される。
そうですね。
ウクライナ問題でロシア国内で今度の戦争に反対している人たちの中には、ウクライナに親戚がある人たちが多いという。

──そういう人たちの心情はウクライナとの戦争に反対だ。
そう思う。
そういうことを含めていろんな方策をとっていかなければ。有事が勃発してからそれを止めさせようと思っても、泥縄式ではなかなか難しいと思う。

──ロシアとウクライナの紛争はしばらく続くと見ておられますか?
それは分からないが、ウクライナからすれば戦争がはじまる前の元の状態に戻さない限り、譲らないだろう。ロシアにしても戦争を始めた以上、成果なしに止めるわけにはいかない。私はそう簡単には停戦にはならないと思う。
プーチンにしろ習近平にしろ、憲法を変えて、自分の政権が長く続くように図っている。そういう独裁国家を相手にするわけだから、政権が変わらない限り停戦に持ち込むのは難しい。
ウクライナ侵略はロシアの戦争というよりプーチンの戦争だ。プーチンが失脚し、別な大統領が出てくれば、ちょっとは変わるかもしれないが、簡単ではない。

──この戦争は長びく?
そうだ。プーチン大統領の任期は2024年までだが、それがさらに延び、2036年までゆく可能性がある。そうするとプーチンは自分の名誉にかけて勝とうとする。
一方のウクライナ側にしても国家の存立をかけて負けるわけにはいかない。
キッシンジャー氏などが「戦争を止めろ」と言っているが、ウクライナの立場ではそう簡単にはいかない。
止めれば止めたで、それをステップにして第二回戦、第三回戦が始まるかもしれないからだ。
さっきの領土問題と同じで、終りが見えない。

──ゼレンスキー大統領は、国が潰れてもいいから最後まで戦うみたいなことを、国民にも呼び掛けていますね。
ウクライナの国民も大したものだと思う。
ウクライナというのは親日的な国だ。親近感がある日本に来て、日本人と結婚して日本に住んでいるウクライナ人も多い。
ウクライナで日本に関心のある人は、小学生で松尾芭蕉の俳句を学び、高校生は川端康成の「千羽鶴」を学んでいるという。

──「雪国」ではなく、「千羽鶴」ですか。
「千羽鶴」の中に日本的なものが多く出てくることから読ませているそうだ。
そこまで日本への親近感を持っている国が、武力侵攻されているのは本当に残念だ。
今回の戦争から日本はいろんな教訓を学べる。最大の教訓は自分の国を思う気持ちが大事ということだ。テレビを見ると、各所にシェルターなどが造ってある。普段からの心がけが大事だ。
大統領がかなり無理なことを言っても、愛国心に燃えたウクライナ国民はついていく。ウクライナの国民はすごいと思う。

──私たちに切実な問題提起をしてもらった気がする。
一番、私が思ったのは憲法前文に書いてある「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とある。しかし、ウクライナ問題で鮮明になったのは平和を愛する「諸国民の公正と信義」など全くない国が存在するということだ。これ1つとっても憲法の見直しは必要だと思う。

──核大国のロシアが核威嚇で欧米諸国をけん制しました。我が国でも核シェアリング論が出ています。平沢先生は核の脅威に対する安全保障をどうお考えでしょうか?
後藤田先生が御存命なら、目をむいて怒ると思う。我が国には非核三原則がある。
それに、今回、防衛費GDP比2%の意見が出てきた。約40年前に1%の時に大議論した経緯がある。
今までは1%ちょっとでおさまった。それが今度は2%になった。
私自身は防衛費増は絶対必要だと思う。どうしても必要なものの費用増は当然として、これは不要だとか無駄だとか、そういったことも全部検討して積み上げていかなければいけないのに、費用だけが先にきてしまう。これは違うのでないか。
さらに、いくら防衛費を増やしても、一国では中国にはかなわない。だから同盟国と任務分担した上で、日本はどうすべきか考える必要がある。予算先にありきで進むのは如何なものか。予算の必要性は分かるが、国民のご理解を頂くのがまず先だ。
もう一つ気をつけるべきは、今、戦争が行われているが、そういう時ではなく、ある程度、冷静になった時に、こういう問題は議論すべきでないか。
反対するわけでは全くないが、今こういうときに、慌てて結論出すのでなく、長期的問題、そして短期的問題に分けて議論すべきと思う。
後藤田先生が私にしばしば語られたのは、日本は間違った戦争で多大な犠牲を払った。今後の一番の心配は、戦争経験が全くない人たちが、政治のそれぞれの司司に座って、それでゲーム感覚で政治をやることだ。後藤田先生はそれをいつも言ってまして、宮沢喜一先生も同じようなことを言っておられた。
防衛費だけでなく、敵基地攻撃も核問題も後藤田先生なら、もっと慎重にしろというだろう。
勿論時代も背景も変わっているから今までと同じである必要はない。しかし、こうした議論は火が燃えている最中に、あまり議論もせずに突っ走っていくのは如何か。
結論は同じになるかもしれないが、プロセスとしてまずは議論して決めるべきだ。そこではいろんな意見があっていい。今はちょっとでも反対すると国賊みたいに言われかねないが、それはどんなものか。

──憲法改正についてはいかがですか?
憲法については、韓国人東大教授と「朝まで生テレビ」で一緒になった時、彼は私に「憲法改正を訴えて当選したら、3度回ってワンという」と述べた。
私は憲法改正を訴えて当選したから、次に彼に会った時、「私、当選しました」と言うと彼は知らんぷりを決め込んだ。
また、テレビで同席した中国人教授は「日本の憲法は本当に素晴らしい。憲法は絶対に改正したらだめだ」と番組の中で言った。
私は「それは素晴らしい。ありがとうございます。そういう素晴らしい憲法なら、中国に帰られて中国の憲法にこの文言を入れる運動をしてください」というと、彼は黙ってしまった。
軍事力を持たないとする日本の憲法を評価する向きもあるが、中国ではどんどん軍事力拡大の方向に走っているのである。

──亀井静香氏の近著「永田町動物園」に平沢先生の項で「タバコを買うときは1箱ごとに買う店を変え、散髪する時は毎回違う店だ。最大の目的は地元の人たちが何に困っているか、生の声を聞くためだ」とあります。
散髪屋さんなんかに行って、隣で散髪してもらっている人の話を聞いていると、本音を語っているから非常に参考になる。
世間の空気を知ろうと思ったら、必須の事柄だろう。
一番、それが分かるのは駅に立った時だ。そうすると大体、分かる。今政治に不満を持っているのか、ある程度、満足して応援してくれているのか、駅で挨拶していると、それがわかる。
駅を通る人は私と直接関係のある人ではなく、多くは知らない人が多いわけだから、そういう人たちがどういう態度をとるかで、社会の支持率がわかる。

──いろいろな会合に、よくお顔を出されますか?
呼ばれた会合に出向くのは当たり前のことだが、呼ばれない会合に行くというのが私の基本方針だ。
多くの政治家がダメなのは、呼ばれた会合だけ行って、リボンなど付けて上座に座り、挨拶だけしてそれで帰ってしまう。これが一番ダメなパターンだ。

──政治家のパーティーではよくお見受けする光景ですね。次の会合に行かなくてはならず、急いでそそくさと席を立つ。
退席の仕方は、大変難しい。
上座でふんぞり返っているようでは話にならない。ともかく気持ちの上では、下座に座らないとだめだ。お葬式は万難を排して絶対、出る。それは鉄則だ。

──だから先生は選挙にお強い?
選挙に強いわけではなくて、何万から何十万といる選挙区の人々とできるだけ親しくならないとだめだ。

──ある意味、身内みたいな?
そうだ。そういう気持ちにならないことには、とても選挙には勝てない。

──そういうことを先生の政治家としての気概を感じる。
本当は楽しんでやるのが一番だが、必ずしもそうはいかない。
政治家は、きつくて辛くて悲しい思いをどのくらいするかで違ってくる。
呼ばれない会合に行けば、お前なんで来たのか。「出て行け」と言われる。
そういうことを何回も重ねていると、そのうち、「仕方ないから隅の方に座っていろ」となる。その声が一度、かかるとあとは将棋倒しのように前に進む。

──先生の参加を拒否するところはあまりないのでは?
信条を共にするところじゃなくて、他党の会合だったりすれば、快く思わない人は出てくる。
それでも私が是非行きたいと思っているのは、革新党系の会合だ。
自民党の会合は、知った人ばかりで、そういうところも大事だけれど、やっぱり行きたいと思うのは革新系の会合だ。
100人の会合に出かけていって、100人のうち1人が私の応援団に変わってくれれば、万々歳だ。

ひらさわ かつえい

1945年9月4日、岐阜県大野郡白川村生まれ。生家は国の重要文化財に指定されている「旧大戸家住宅」。東京大学法学部卒業。警察・防衛官僚を経て衆議院議員(自民党、9期目)。第11代復興大臣。自由民主党広報本部長、ワールドスケートジャパン会長などを歴任。著作に「警察官僚が見た『日本の警察』」 、「拉致問題―対北朝鮮外交のありかたを問う」、「日本よ国家たれ」など多数。

【聞き手プロフィール】

とくだ ひとみ
1970年3月、日本女子大学文学部社会福祉科卒業。1977年4月、徳田塾主宰。2002年、経済団体日本経営者同友会代表理事に就任。2006年、NPO国連友好協会代表理事に就任。2010年から2019年まで在東京ブータン王国名誉総領事。本誌論説委員。