経済の風を読む

YON437株式会社 代表取締役社長 兼子暁吉

日本を魅力ある国にするために

現在、アメリカ経済は高インフレに見舞われている。
消費者物価指数(CPI)は、コロナ前が2%前後であったのが、今は、8・5%と、40年ぶりの高水準にある。
背景にあるのは需要が強く、供給には制限があるからだ。
その理由は、3つある。
①コロナ後の経済対策として前例のない財政出動により、国民の財布が潤った。
②賃金の上昇。
③株、不動産の高騰。
この3点が挙げられる。
供給が制限されている現状も、主に3点ある。
①品不足と物流停滞─サプライチェーンがストップし半導体不足となったことで、様々な製品の生産がストップしている状況であり、これは中々解決の兆しが見えない状況にある。
②人手不足と賃金上昇─賃金の高騰から販売価格の高騰を招いている。雇用動態調査を見ても、求人数約1100万人、採用数が約600万人と人手不足が明白だ。
③エネルギー資源の高騰─ロシアによるウクライナ侵攻もあり原油や穀物の値段が上昇、生産コストが上がっている。
現在、課題となっているのは、富裕層と低所得者との格差是正にある。
低所得者の生活が厳しくなりつつあることから、中間選挙を控え、バイデン政権を支える民主党と共和党の大きな争点となる見込みだ。

株価と金融政策
コロナ禍で低迷を余儀なくされた経済を回復させるため、これまで米政府は、とにかく金融緩和を行い、市場にお金をばらまいてきた。それに対し高騰する物価を抑制するために、利上げをしなければならなくなった。株価が気がかりではあっても、基本的には利上げの制約にはならないと考え断行した。
物価は上がっても、米2年債は上がらず、金融緩和を行っていくとFRB(連邦準備制度理事会)は発言していた。幅広い製品やサービスで、インフレは広がっていないと考えたからだ。
物価は落ち着くどころか、さらに上昇した。FRBが金融緩和を行うことをやめ、利上げが必要となり一気に方向転換して金融引き締めへと舵を切った。
2022年、0・25%の利上げを実施し、そのあとは毎回0・5%の利上げを示唆している。
これは、通常の利上げの倍行うということだから、今世紀最速のスピードで利上げを行うことになる。
毎回の会合ごとにペースが上がり、1年前と言っていることが変わり、想定していなかったインフレになってしまった。
逆にコロナ経済が復活しつつある中、それを崩したくないという思惑を優先した格好だ。

利上げで相反する2つのベクトル
利上げの見通しだが、0・25~0・5%を毎回行い、1年間で3%に迫るような動きになるということが市場のコンセンサスとなっている。
あまり利上げしすぎると景気が悪くなってしまったり、株価下落を引き起こすので、そこは注意しながら利上げを行っていかなければならない。
そこで中立金利の設定が必要になる。
FRBは中立金利を3%ぐらいと考えており、実際の金利はすでに超えてしまっているのでブレーキをかけなければならない状況となっている。
金利が上がったことで株価が上がるという動きと、金利が上がったことで景気にブレーキがかかり株安になるという、相反する2つのベクトルが想定される。
コロナ前は、低金利株高だった。
そこから金利は上昇し、さらに株高になった。しかし、その局面が終わり金利が上昇したことにより景気を冷やしてしまい株安になった。これが今の局面だ。
これからは金利が低下し株安になり、また金利上昇と並行する形で株高へと向かっていく流れになるのではないかと考えられる。
FRBはコロナ経済を回復させるため、金融緩和を行ってきたが、それがやりすぎてしまったのではないか、景気が後退し物価だけ上がってしまったらFRBの政策は失敗となるので、そこは見極めなければならないところだ。
引き続き物価の安定を図り、雇用の最大化と金融システムの安定を徹底して行う姿勢にある。

ゼロ金利維持の日本
一方、日本経済は、欧米とうって変わった政策を行っている。
日本だけが、ゼロ金利政策を維持したままだからだ。
今年3月以降、日米の金利差が、円を売りドルを買う流れを加速させている。
日本国10年債を上限0・25%とし、0%程度にするのが日銀の目標のひとつとなっている。
日銀は連日指し値オペをすることで、上限を絶対に越えたくないという意向が鮮明に見てとれる。
円安になったとしても、金融緩和の続行姿勢を見せている。
その影響により輸入コストが上がり、販売価格を上げざるを得ない状況となっている。
そして賃金は上がらず、消費は鈍い状況にある。販売数量が減ってしまうと景気は冷え込んでしまいかねない。こうしたことから、企業側も日本の景気もかなり厳しい状況に立たされている。
日銀は、賃金の上昇により消費を増やすとともに、インフレ率2%を達成し、値上げをすることで企業収益の増加を図るという理想論を掲げている。
ただ日本経済にとっては現在、ここまでの円安はメリットは少ない。
以前のような輸出企業にとってのメリットは薄れているばかりか、外国人観光客もすぐに見込めないからだ。
円資産を持っている投資家は売り急ぎ、アメリカ資産を買う流れが止まらないと考えられる。
為替の過度な変動は、企業の事業計画の方針を難しくしている。

期待される消費拡大政策
今後、アメリカ経済は過度のインフレこそ収まるものの、ある程度のインフレが続くと考えられる。
コロナ禍により、価格競争業態は通用しなくなっており、商品やサービスのブランド化に成功しているところが利益を伸ばしている。
ロシアのウクライナ侵攻が続き、アメリカが利上げをし続ける状況になれば、株価は落ち着き円安も落ち着くと考えられる。
しかし、世界経済次第で動くのではなく、そして物価上昇を避けるために動くのではなく、消費を伸ばすような政策を打つべきだ。需要を強くすることが最も必要なことだからだ。
それには、財政出動を積極的に行う必要がある。そして、日本の強い産業に積極的に投資を行う必要がある。
円資産を再度保有したくなる魅力のある国にするには、政府が国内事業を拡大するメリットを生むための投資が必要だ。
製造業の優遇や農業の効率化、半導体の開発、宇宙産業、仮想空間、金融をメインに日本を発展させることが急務だ。

かねこ あきよし

1993年生まれ。静岡県磐田市出身。2016年、神奈川大学経済学部卒業。2016年、YON437株式会社設立。現在に至る。日本経営者同友会政経研究委員会委員。