松田学の国力倍増論(23)

松田政策研究所代表 元衆議院議員 参政党前代表

G7グローバリズム体制の崩壊と日本国民の新たな選択肢

岸田総理が今般、ウクライナとの間で10年間に及ぶ安全保障協定に署名した旨を明かしたのはゼレンスキー大統領だった。まず本年は45億ドル、つまり半年で約七千億円の資金提供となるそうだが、これは年間では1・4兆円のペースであり、10年続けば14兆円?今回も進んでいるのが日本の「ATM化」だが、納税者である日本国民に説明はあったのか。

自ら弱体化を招いている 
G7秩序と米ドル基軸通貨体制

加えて、今般イタリアで開催されたG7サミットでは驚くべき方針が決められたようだ。それはウクライナ支援のための基金の設置だが、これは西側が経済制裁で凍結しているロシア中央銀行の金融資産の活用であり、さすがに約45兆円前後の元本に手をつけると露骨な国際法違反となるので、このロシア資産の毎年の30億ユーロ(約五千億円)の運用収入を返済原資に充てる形で、各国がこの基金に融資をするというスキームだそうである。

早速、米国は7・8兆円の基金への融資を表明しているそうだが、あの9・4兆円の米国ウクライナ支援予算(岸田総理訪米直後に「融資なら」とトランプ氏も了解して成立した予算)を日本が保証すると密約したとの話の正体がこれか…と思わせるものがある。

戦争が終わってもロシア資産の運用益を西側が活用し続けられる前提は、ウクライナ戦争でロシアが大敗し、賠償金を取れるような場合だろう。現在のロシア優位の戦況からみても、まず、この前提自体が疑わしい。また、ロシア凍結資産の3分の2はEU域内にあるが、残り3分の1を管理する香港筋に対して本件に関する訴訟の動きもあるようだ。ロシア側は、同国内の石油・天然ガス関係の西側設備を差し押さえる構えであるとも聞く。

つまり、これは毎年の五千億円の返済原資が決して確実とはいえないスキームだといえる。米国から基金に融資された資金はウクライナに贈与され、戦争中は米国軍事利権からの武器購入に回る。そして、基金からの返済原資が確保されない場合が、日本による債務保証密約の出番か…。これについても岸田総理は日本の納税者に何の説明もしていない。

もう一つ、この凍結資産活用スキームは長期的にみた世界の分断を加速することになる。現在、世界では新興国・途上国(グローバルサウス)が台頭しているが、その多くの国々が「G7秩序」には従わず(対ロ経済制裁に加わらないなど)、逆に中ロ側を指向し、「BRICs秩序」が拡大する勢いだ。これら諸国にとり、有事の際に凍結される恐れのあるドル建て資産の魅力は低下しており、本スキームがこの流れを決定的にする可能性がある。

かたや、BRICsの今年の議長国であるロシアはブロックチェーンを活用した「BRICs共通通貨」を提唱している。もとより資源国が多い国々であり、金や資源をバックにした世界通貨で米ドル基軸通貨体制を脅かすとも言われている。

一連の対ロ経済制裁が、中ロなど専制主義国どうし、そしてこれらとグローバルサウス諸国との関係を緊密化させて世界を分断に導き、他方でロシアの経済状態を改善させるなど、自分で自分の首を絞めてきたのがG7だ。「法の支配」を掲げているはずのG7側が、今回はさらに、国際法秩序を侵してまで凍結資産を勝手に流用する事態は、まさに国際秩序の根本にある通貨体制についてまで、自分で自分の首を絞める暴挙といえないか。

欧州で台頭する「極右」は 
本当に極右なのか

日本のメディアも政官学界も…各界指導層が世界の新たな潮流に背を向けてきたことを示したのが6月の欧州議会選挙だった。彼らにとっては認識外の事態が各国で進んでいる。フランスでは「極右」とされるRN(国民連合)が得票率で約32%の首位、このRNは前回の大統領選で40%の国民からの支持を得たルペン氏の党であり、同氏は次期大統領選で勝つ可能性がある。これだけ多くの国民が支持している政治勢力がなぜ「極」右なのか?

ドイツでも「危険なポピュリズム」の「極右」政党と報道されているAfD(ドイツのための選択肢)の得票率が保守の前政権政党であるCDUに次ぐ2位へと躍進、現与党のSPD&緑の党(環境政党として前回19年に躍進)は大敗を喫した。イタリアでは現在の総理大臣のメローニ氏が率いる、これも極右とされてきたFDI(イタリアの同胞)が大勝した。総理の政党がどうして「極右」?グローバル利権の支配下にある世界の主要メディアが、現在、世界で生じている国際秩序の大変動という事態を捉えきれていないようだ。

極端な脱炭素原理主義がインフレやエネルギー不安をもたらし、移民の急増が社会の分断や民族存亡の危機につながり、ウクライナ戦争が本質的には西側利権が起こしたものと見抜かれているとすれば、真っ当な諸国民がこれらを批判するのはごく自然な現象だろう。

「自国ファースト」で 
共存共栄する国際社会へ

欧州では各国の主権を超えて一律の原理のもとにガソリン車の禁止などの諸般の規制を各国民に課しているのがEU機関だ。これをグローバリズムと批判する動きは、かつての英国EU脱退の際にもみられたが、先ずは自国民を優先せよという主張が各国の主権者であり納税者である国民から出るのは当然の現象である。米国でも「アメリカファースト」のトランプ氏が起訴される度に同氏への支持が拡大したが、その背景にはバイデン・グローバリズム勢への国民の怒りがあり、ポピュリズムとは言い切れない。世界の指導層やインテリたちは早くこれまでのレッテル貼り思考から目覚めて、現実を学び直すべきだろう。

世界保健機関(WHO)は先般、各国の主権や民主主義を超えてワクチン接種などパンデミック時の対応を強制措置化する恐れのある国際保健規則の改定を強行採決したが、米国では上院議員の半数が反対の意思を示すなど各国でも反発は強い。日本でも4月と5月には都内に全国から数万人の国民が自発的に集まって反対デモが行われたが、これら事実を主要メディアは全く報道していない。現政権の下でWHO側に加担する日本政府は、この国際保健規則改定と合わせて、科学的根拠が不明な場合でも国民に行動制限を課したり、ワクチン接種に否定的な発言を封じることを正当化する「行動計画改定」へと動いた。

本来なら、日本国民の立場に立って、こうしたグローバリズム全体主義の暴挙から国民の命や健康、言論の自由を守るべき国会が、この問題をまともに取り上げてすらいない。後遺症など様々な弊害が世界的に認識され、他国ではとうに頭打ち状態にあるコロナワクチン接種回数が未だに伸び続けてきたのは日本だけであるが、このことすら大半の国民も国会議員も知らない情報鎖国状態に日本が置かれていることが原因の一つだろう。以上は、日本のメディアも政府もいかにグローバル製薬利権の支配下にあるかを示すものである。

いま世界では新しい世界秩序が始まろうとしている。グローバルサウスも、その大半の国々がナショナリズム指向とされる。冷戦体制崩壊後の米国一極主義や、この体制を利用して世界で戦争を起こしてきたネオコン、利権を追求してきたグローバル勢力が、世界を「ワン・ワールド、ワン・ルール」で統治しようとする潮流が明らかに転機を迎えている。

いずれ来る総選挙では、現在のメディア報道とは異なる認識に立つ別の選択肢が有権者に示される必要がある。それは、世界が「自国ファースト」の時代に入る中にあって、日本も「日本ファースト」でまずは国益を追求し、その上に立って多様な国民国家が共存共栄する新しい国際秩序をリードする、そうした国づくりに向けた政治の選択肢ではないか。

松田 学
1981年東京大学卒、同年大蔵省入省、内閣審議官、本省課長、東京医科歯科大学教授、郵貯簡保管理機構理事等を経て、2010年国政進出のため財務省を退官、2012年日本維新の会より衆議院議員に当選、同党国会議員団副幹事長、衆院内閣委員会理事、次世代の党政調会長代理等を歴任。その後、未来社会プロデューサーを名乗り、言論、発信活動を展開。2020年に参政党を結党し、22年7月~23年8月に国政政党としての同党代表を務めた。