滞貨一掃、新人待望論も

着実に狭まる首相包囲網

「岸田では戦えない」が党内世論

7月7日投開票の東京都知事選で現職の小池百合子氏が3選し、政局の焦点は9月に実施される自民党総裁選の候補者選びに移った。続投を狙う岸田文雄首相(総裁)は「政治とカネ」の問題などで過去最低の支持率から這い上がれず、「次期衆院選は岸田では戦えない」が有力な党内世論となった。では茂木敏充幹事長、石破茂元幹事長、河野太郎デジタル担当相、高市早苗経済安全保障担当相らで戦えるのか。「滞貨一掃し、新たな顔を」の待望論も浮上してきた。

小池都知事は9日、官邸を訪れ岸田首相に都知事選勝利の報告をした。笑顔で迎えガッチリと握手した首相だが、「勝利したのはあくまで小池氏で、支持した自民党は惨敗だった」と自民党中堅幹部は語る。

確かに、自民党は今回、「政治とカネ」の問題が尾を引き、表に出て支援することができなかった。裏で業界団体回りなどをし、小池氏としてありがたいのは間違いないが、自民党の得たものは「負けなくてよかった」という安堵感程度だろう。

むしろ、都知事選と同時に行われた都議補欠選挙で2勝6敗と惨敗したことで、岸田首相にとって大きな痛手になったのは間違いない。同選挙は、都内の次期衆院選の区割りとほぼ重なるため、党勢を占う先行指標になるためだ。

9つの補選のうち8選挙区で立候補した自民の勝敗ラインは、選挙前の5議席確保だったが、板橋区と府中市の2つで勝利しただけ。自民党都連会長・萩生田光一氏の地元・八王子市選挙区には茂木、石破、河野、高市の「ポスト岸田」候補が続々と応援に入ったが、派閥パーティー収入不記載問題の逆風が直撃し45000票の大差をつけられ惨敗。萩生田氏は責任を取り都連会長を辞任した。

先の党幹部は「敗因は明確。岸田首相が政治とカネの問題に正面から取り組まず、いい加減な対応をしていることを都民から見抜かれている。国民の目線も同じだ」と話す。総選挙を控える東京16区の大西英男衆院議員は「首相は謙虚に国民の声に耳を傾けて辞任し、9月には新しい総裁を選ばなければならない」と強調。平沢勝栄元復興相(衆院東京17区)も「党の土台の抜本的な変革が必要だ」と訴えた。岸田首相は「結果を真摯に受け止め、今後に生かしていかなければならない」と語ったが、どう総括して生かす考えなのか。

首相への退陣要求は4月の衆院3補選、5月の静岡県知事選など相次ぐ敗北で強まってきた。長野県連の西沢正隆幹事長(県議)は6月8日の車座対話で、首相の退陣と党執行部の顔ぶれの一新を要求。麻生派の斎藤洋明衆院議員(新潟3区)も同16日、自身のパーティーで「こういう状況に至った責任は最終的に誰かがとらなければならない」と語った。茂木派の東国幹衆院議員も同22日、北海道旭川市で「この1年を顧みれば再選などと軽々しく口にせず、思いとどまって新しい扉を開く橋渡し役を担ってほしい」と訴えた。

菅義偉前首相も同日、千葉県連大会で特別ゲストとして講演し「政権を渡すことは絶対にならぬ」と訴えたが、これは政権支持率が最低の岸田首相では選挙を戦えないと言っているのと同じ意味だ。首相包囲網は着実に狭まっているのである。

ただ、「ポスト岸田」と名前の挙がっている議員たちも、候補者となり勝ち上がるための決め手に欠ける。最短距離にいるとされる茂木氏は「幹事長は総理総裁を支えるポストだ。私も出るとなれば『令和の明智光秀』になってしまう」と語る一方で、「首相としてやりたいことはある」と意欲を示しつつある。

ただ、幹事長として選挙の公認権や党資金配分の采配を振るう権限を持つため強い求心力を持つが、「パワハラタイプの典型で人望がない」(党幹部)のが最大の欠点だ。自らの関係政治団体から、住所、連絡先、会計責任者が同じ別の政治団体へ10年かけて3億円以上を資金移動したことが脱法ではないかとの疑惑も浮上、「政治とカネ」に関するマイナスイメージを拭えるか、つまり次期総選挙の顔になれるのかは疑問だ。

マスコミが世論調査をすると「次の首相候補」でトップに躍り出ることの多い石破氏に対し、党員や党本部関係者らからは「選挙で負けを最低限食い止められるのが長年ポストを与えられず冷や飯を食ってきた石破さんだろう」との評価もある。だが、国会議員の支持は広がりにくく、総裁選に出馬可能となる推薦人20人を集められるかが課題だ。ただ、本人は「今までで一番大事」と述べており、「チャンスあり」と判断して出馬する可能性はある。

意欲満々なのは河野太郎氏だ。2021年の総裁選で、岸田氏とわずか一票差で決選投票にもつれ込み敗北したが、党員票では岸田氏に圧勝した。捲土重来の思いは強いに違いない。だが、親子そろって中国共産党との関係が強い。米国では強烈な反中のトランプ前米大統領が共和党候補として正式に指名され、返り咲く可能性が濃厚であり、日本外交の基軸である米国との距離感を誤り、国益に反する政策を打ち出す危険性がある。

高市早苗氏は安倍晋三氏の遺志を最も強く受け継ぐ保守派の代表格だ。憲法改正や皇統を守ることの重要性をしばしば強調している。安倍政治の最後の砦とも言える。ただ、「シャッポになるには幹事長の経験がなく、安倍さんに敵が多かったように高市さんにも多い」と指摘する自民党幹部は、加藤勝信元官房長官についても「人柄がよく敵は少ない。政策も安倍さんに近いが選挙の顔にはなれない」と評価する。

党内には「次の選挙で自民党が野党に転落するどころか崩壊するかもしれない緊急事態なのに人材がいない」との危機感が募っている。

こうした中、齋藤健経産相(当選5回)と小林鷹之前経済安保担当相(同4回)の名前が浮上してきた。二人とも東大、ハーバード大・ケネディースクールで学び「政治とカネ」の問題の影がない。都知事選で石丸伸二・元広島県安芸高田市長の善戦が見せた無党派層の既成政党離れを、取り戻すためには過去のしがらみにとらわれない行動力や政策力が不可欠だ。「齋藤さんは初当選した時、小泉進次郎らと『自民再生の四天王』と呼ばれたことがあった。『有志有途』が座右の銘の小林氏には安倍氏が強調した『日本を取り戻す』ことが頭にインプットされ、その先の国の姿を示す政策力もある」と自民党幹部職員は言い切る。

日本国の舵取りには私心がなく、指導力、大局観を持った指導者が求められる。少なくとも、国民の支持を失い、敵失を期待して自らの政権延命を最優先にする政権は退場すべきである。