2委員長取った立憲の思惑

本予算成立と引き換えに総辞職も

石破政権、3月までの短命か

10月27日投開票された第50回衆院総選挙の結果、自民、公明両党は、獲得議席が過半数を割り、少数与党として第二次石破政権のスタートを余儀なくされている。少しでも安定度を増すため国民民主党を取り込んで政権の延命を図る石破茂首相だが、野党第一党の立憲民主党の攻勢は激化する見通しだ。2025年3月末の本予算成立と引き換えにした石破政権退陣説が永田町を駆け巡っている。

衆院選後に召集された特別国会で11月11日、衆参両院の首班(首相)指名選挙が行われ、石破茂総裁が第103代内閣総理大臣に選出された。衆院では自公両党が過半数に満たないため、30年ぶりに石破・自民党総裁と野田佳彦・立憲民主党代表による決選投票となった。その際、野党が「野田佳彦」で一致して投票すれば石破氏は敗れていたが、国民民主党所属議員がそろって代表の玉木雄一郎の名前を書いたため逆転現象は起きず、石破氏多数による指名となったのである。

「石破さんは玉木さんの取り込みに成功した形だが、玉木さんとしても与党に恩を売って自党の政策を盛り込ませ、その成果を武器に2025年7月の参院選でさらなる飛躍をしようと目論んでいる」と語るのは自民党幹部だ。その成果の第一弾が22日に閣議決定した39兆円規模の経済対策で年収103万円を超えると所得税が生じる「103万円の壁」の上限引き上げと、ガソリン税の検討を盛り込ませたことだ。実際に実現するための税制改正に向けて議論も国民民主が主導することになる。

「自公としては政権延命のためには国民民主の機嫌を損ねられない。この調子で国民民主をうまく扱い2025年3月の本予算の成立にこぎ着けられれば石破政権は、とりあえず大きな山場を乗り越えられる」と先の幹部は続けた。だが、立憲などの野党は、その3月に照準を合わせ、「政治とカネ」の問題だけでなくさまざまな戦術で政権の足腰を弱らせるよう仕掛けると見られている。

その主戦場となるのは、与野党が最も激しくぶつかり合う予算委員会だ。与党はその仕切り役となる委員長ポストを立憲の安住淳元国対委員長に譲ってしまったのである。同委員会は予算を扱うだけでなく国政全般のテーマを取り上げ、議員や政府のスキャンダル追及の場となってきた。委員長は議論の時間配分やテーマを選択する権限を持っており、これまで自民党議員の定席だった。「これを立憲が握ったことで自民のイメージダウンにつながるテーマを根ほり葉ほり時間をかけてやり、予算案成立にも抵抗して採決させないよう舵取りするのではないか」(自民党本部職員)。

「立憲が二つの常任委員長を捨ててでも法務委員長のポストを取りに来たのも、わが党にとってまずい」と先の職員は指摘する。就任した立憲の西村智奈美氏は、強硬な選択的夫婦別姓論者で党内における代表的左派。野田代表は「選択的夫婦別姓を成立させるためにこのポストを狙った」と証言している。その背景には、選択的夫婦別姓導入に賛成の公明党の力を借りて自民党内の保守岩盤層を崩し、自民党自体を弱体化させようとする戦術がある。家庭や夫婦の在り方、国体にまでかかわるテーマを利用し政局化しようとしているのだ。

石破政権は外圧の強風にどう対処するのかという大きな課題にも直面しようとしている。米国ではトランプ大統領が再登場した。国際情勢は、ウクライナをめぐるロシアや北朝鮮兵支援の問題、中国の台湾侵攻の危険性、パレスチナとイスラエル紛争による中東地域の不安定化など続出し、米国第一主義を唱えるトランプ氏の外交・安全保障の出方が注視されている。日米同盟を外交の基軸とする日本への防衛分担の増加を要求してくる可能性は大きい。対米公約の防衛増税はもちろん、集団的自衛権の行使を名目とした軍事的支援の要求に応えるために憲法改正をしなければならないこともあり得る。そうした時に、憲法審査会長に就任した立憲の枝野幸男元代表が順応して改憲に方向転換するとは考えにくい。  

「石破首相が立憲に譲ったポストはどれもこれもまずいものばかりだ。国民民主からは足元を見られ、立憲からは揺さぶられる。首相の求めるのは『国民の共感と納得』で、自ら描く国家の理想像も示せずに国政をリードしていくのはとてもできない」と指摘する与党関係者は、「そこで、立憲が狙うのは、2025年3月末の本予算成立と引き換えにした石破政権の内閣総辞職か、国民民主を巻き込んでの内閣不信任決議案の成立ではないか」と語る。

どちらにしても、立憲は、10月9日に衆議院解散が宣言される直前に合意した、国民民主を含む4野党による内閣不信任決議案提出を足掛かりに、国民民主を自公与党から引きはがす作業を強化する見通しだ。国民民主としても7月の参院選を考えれば、いつまでも与党と一緒にいるのは得策ではない。両党の最大の支援組織である「連合」も同じ見解だろう。だが、立憲、国民両党の間には基本政策を巡り大きく3つの隔たりがある。 一つは、原発問題だ。原発の建て替え、新増設により安定的なエネルギー確保を主張する国民民主に対し、新増設は認めないのが立憲の立場。二つ目は、安全保障問題。国民民主は自衛のための打撃力(反撃力)を保持し安全保障関連法を認める考えだが、立憲は安保関連法には違憲部分があり廃止すべきだとする。憲法改正への姿勢でも、立憲は「論憲」を主張、国民民主は緊急時における行政府の権限を統制するための緊急事態条項や議員任期の特例延長を認める規定を創設する「改憲」のスタンスである。両党は11月5日、基本政策の協議の開始で合意したが、その後、進展はない。国民民主の榛葉賀津也幹事長は「立憲には定まった基本政策をすべての国会議員に共有してもらわないと交渉にならない」と突き放している。

自民党としては、内閣不信任案の提出阻止のために国民民主に揉み手で頭を下げ続け、連立与党に組み込むためのアメの提案を連発しよう。ただ、その平身低頭姿勢が低迷する内閣支持率や政党支持率のばん回につながらず、「自民党らしさ」を失い続け党基盤の弱体化につながっていく危険性をはらんでいることも確かである。