松田学の国力倍増論(25)
松田政策研究所代表 元衆議院議員 参政党前代表
世界政治の新潮流は草の根SNSと反グローバリズム
最近、日本でも世界でも、選挙のたびに、従来の常識が覆される事態が起きている。欧州議会選やドイツ地方選での「極
右」?の台頭、都知事選での石丸現象、総選挙での自民党の惨敗、トランプ氏が大勝した米大統領選…そして兵庫県知事選では「パワハラ、おねだり」と叩かれて失職した斎藤元彦前知事が勝利を収めた。ついに草の根SNSが大手マスコミに勝った!この知事選は、政治を国民の手に取り戻す象徴的な出来事かもしれない。
マスコミの終焉と草の根SNS
2022年は、マスコミによる無視の中で国民の間に「参政党現象」を起こしたSNSが、2024年は石丸現象をもたらした。トランプ氏勝利も、メディア報道の欺瞞に米国民を気付かせたSNSの力が大きい。マスコミは本当のことを報道していない…兵庫県知事選では県の既得権とメディアによる弾圧にもめげずに改革を貫こうとした斎藤氏に有権者の関心が高まり、前回より高い投票率で無党派層が同氏を当選へと押し上げた。一人一人の投票行動が政治を変えられる。今回の知事選のメッセージはこれかもしれない。
他方で、自らが創作した筋書きと反する事実には「報道しない自由」を行使し、偏向報道で政治を左右してきたメディア側には深刻な反省が迫られよう。今回は、大手新聞社の記者たちが自分たちには不都合な事実の口封じのために、取材源の兵庫県庁幹部に圧力をかける姿がSNSで暴露されている。元県民局長が使用していた公用PCの中には、「斎藤知事のパワハラによる自死」との筋書きを覆す倫理上の問題が含まれていたようだ。
一連のTV報道自体、パワハラや特産品云々との内容に不自然さがあったし、異常なバッシングとの印象が拭えなかった。どうも、斎藤氏を追い落としたい人々が情報戦を仕掛けてマスコミが乗った?県政改革を進めた斎藤氏は、天下りをやめさせ、予算千億円の庁舎建て替えを凍結、事業よりも教育に予算をと考え、役所が得する予算の配分を見直して若い県民に還元する方向に県政を進めた。これが前知事までの間に県政に巣食った既得権益からの猛反攻に遭った…多くの有権者にこうした認識がSNSによって広がったようだ。
各国の主権を超える支配構造、
グローバリズムとは
ただ、最近の新しい政治現象はSNSだけで説明できるものではない。もはや世界の政治の対立軸は、かつての「右か左か」ではなく、「上か下か」であり、「上」とは、グローバリズム勢力をバックとする既得権益集団であり、これに「下」、つまり草の根国民運動が対抗する図式が欧米で大きな潮流変化を引き起こしている。米大統領選で反グローバリズムの立場のトランプ氏が大勝したことは、この流れを決定づけるものといえよう。
では、グローバリズムとはそもそも何なのか。その思想的な淵源は、ヨーロッパ中世における「唯名論」にあるとされる。これは、例えば人間も国家もそれぞれに異なる個性のものとして存在しているが(実在論)、これを捨象して人間を「人間」という類型としてしか考えないのが唯名論だ。アダムとイヴは禁断のリンゴを食べた、だから、その子孫である「人類」は全ての人が「原罪」を背負っている。自分はそんなことをしていないと言っても、個々人の人格は否定され、あなたも「人間」なのだから罪を償いなさい、となる。
こうしたキリスト教の世界的な布教に伴って、植民地主義というグローバリズムが世界を支配した。諸国家の独自性を捨象して全てを「階級」という概念で捉え、どの国も共産主義革命をもって進歩すると考えたマルキシズムもグローバリズムといえる。今、それは、かつて黒人を奴隷とした白人は全員が罪を負うとして糾弾するキャンセルカルチャーなど、「差別反対」との大義で各国の文化や常識を破壊するポリコレの形で引き継がれている。
グローバリズムは様々な形で世界を席巻してきたが、特にベルリンの壁が崩壊し、かつての社会主義圏が市場経済に編入された90年代以降、それは、本来異質である各国の独自性を否定し、これを競争型市場経済などの原理で同質化する過程で利益を上げるという新たなイノベーションの形をとって、米国を軸に世界を支配する潮流となった。
冷戦終了後の米国一極支配のもと、グローバリズム勢力は米国という国家を使いながら、90年代からは金融、21世紀入り以降は戦争利権(ネオコンと軍産複合体)、そしてITや環境(脱炭素)、さらにはコロナパンデミックで正体を現した医産複合体が、国家よりも上位に立ち、国家主権や民主主義を軽視しつつ、国境を超えて自らの利権を拡大してきた。
彼らに支配された米民主党政権や主要メディアは彼らに都合の良いプロパガンダ情報を流し続け、それをそのまま垂れ流す日本の報道に洗脳された日本国民は、グローバリズムが引き起こしたウクライナ戦争の本質が見えないまま専らロシアのみを悪と決めつけ、諸外国が既に接種をやめている新型コロナワクチンに疑問を持たずに海外製薬利権に奉仕し、もはや各国で転機を迎えた脱炭素がエネルギー政策の至上命題と信じ込まされている。
トランプ氏の勝利が加速する
国民国家革命の新時代
グローバリズムはDS(ディープステート)と結びつけて語られるが、この言葉を使用する者には「陰謀論者」とのレッテルが貼られてきた。DSこそが敵だと公言するトランプ氏が国民に支持されたのは、もはやこれを陰謀論として片付けられない現実に直面した諸国民に気付きが広がった証左であろう。同様の現象が欧州でも、未だメディアによる「極右」とのレッテル貼りのままの「愛国国民主義」の台頭で、政治情勢を激動させている。
実は、トランプ氏の政策は、ウクライナ戦争の即時停戦も、前大統領時のWHO(世界保健機関=パンデミック全体主義)脱退の方針も、行き過ぎた脱炭素の見直し(同じくパリ協定脱退)も、参政党の立場とほぼ同じである。問題は、日本の国政政党の中で他に、こうした反グローバリズムに立つ政党が存在しないことにある。現に、グローバリズムの意味すら知らない国会議員が大半だ。グローバリゼーションは良いことではないか、程度の認識である。前者が主義主張や行動様式を指し、後者が事実としての現象を指す点で、両者は異なる。
近年、国際化(インターナショナリゼーション)という言葉がいつの間にか「グローバリゼーション」に置き換わってしまった。後者は国境の存在を否定する立場だが、前者は各国家の存在を前提とするからこそ「国」+「際」なのである。トランプ次期政権は、20世紀前半から対外介入主義と利権だらけの大きな政府の国になった米国を、非介入主義の小さな政府という250年前の建国時の原点に戻すための「革命」を遂行しようとしている。
「アメリカファースト」とは、どの国もグローバリズムに支配されず、「自国ファースト」であれということを意味する。その上で、各主権国家が独自性を尊重し合うことから国際社会の調和を目指す。世界の新潮流とは、この当然の常識を取り戻すことでもある。トランプ氏の「革命」を契機に、これからは「国民国家革命」の新時代が訪れるのではないか。
トランプ氏が大統領に就任する2025年、日本は戦後80年の節目の年を迎える。そろそろ戦後の歴史認識を見直し、グローバリズムによるプロパガンダから国民が脱却して国家意識を取り戻すべき時期であろう。かつて、黒船という当時のグローバリズムに抗して明治維新で国民国家を創り、アジアを植民地から解放するとの理念で大東亜戦争を戦った結果、世界から植民地が消えた、そんな反グローバリズムの輝かしい歴史を持つ日本がいま、世界を先導すべき時代を迎えている。日本の政治家たちが心すべきことではないか。
松田 学
1981年東京大学卒、同年大蔵省入省、内閣審議官、本省課長、東京医科歯科大学教授、郵貯簡保管理機構理事等を経て、2010年国政進出のため財務省を退官、2012年日本維新の会より衆議院議員に当選、同党国会議員団副幹事長、衆院内閣委員会理事、次世代の党政調会長代理等を歴任。その後、未来社会プロデューサーを名乗り、言論、発信活動を展開。2020年に参政党を結党し、22年7月~23年8月に国政政党としての同党代表を務めた。