日本経営者同友会代表理事 徳田ひとみ氏が基調講演
東アジアフューチャーフォーラム 8・22
進化するIT社会において 更に求められる文化交流
8月22日、韓国の首都ソウルで、東アジアフューチャーフォーラムが開催された。
故ノテウ大統領の長男ノジェホン氏が主宰するこのフォーラムに今回、日本経営者同友会 会長下地常雄氏と代表理事徳田ひとみ氏両名が招待され、基調講演を行った。
依頼された講演のテーマは「文化とIT産業を通した日韓友好協力強化策」であった。
韓国エンターテインメントを牽引し、韓流ブームの火付け役となったSMエンターテインメントの創立者であるイ・スマン氏の基調講演の次に演台に立った徳田氏は、「日韓の文化的なつながりは歴史的にも長く深いものだ。古くからヨーロッパの文明や商品はシルクロードを通って東アジアにもたらされ、韓国や中国を経由して日本はその恩恵に浴した。日本はイノベーションする能力に優れており、その後、世界が注目する日本独自の優れた文化として確立させている。また韓国は今やIT先進国であり、スマホや半導体産業において国際社会でリーダー的存在だ。と前置きした上で、「IT社会が目まぐるしく進化していく中で、人は人間としての尊厳を保つためにも、心に響く豊かな情感を育くむ文化の交流(音楽や映画、絵画、スポーツなど)が重要な役割を持つことになる」と総括した。以下がその要旨。
1998年、それまで固く門を閉ざしたまま日本文化の流入を阻んでいた韓国で、金大中大統領が日本文化開放策を打ち出した。日本と韓国の間には歴史問題が絡む深い溝があったが、文化交流を通して、両国の友好関係を大きく飛躍させた金大中大統領の英断を心から称えたい。
日韓の文化交流により、我が国には韓流ブームが起きた。2003年から4年にかけ、日本中で大ヒットしたテレビドラマ「冬のソナタ」はまだ記憶に新しい。日本人の多くが、韓国の若い男女のロマンスに、心ときめかせた。これを機に、韓国の風光明媚な場所や生活習慣、人情を知り、憧れ、多くの日本人客が韓国のロケ地を訪ねた。韓国文化に興味を持ち、日本で韓国語を学び始める人達が増えたという。
東日本大震災に見舞われた2011年の大みそかでは、NHKの紅白歌合戦にKポップからBoAやKARAなど3組が出場し、日韓のエンターテインメントの親密な交流を世界に知らしめた。
現在、韓国のエンターテインメント産業と日本のアニメ業界は、お互いに影響を与え合い、発展している。着実に文化交流を通して、日韓の友好協力関係は強化されている。
IT産業においては、我が国の内閣府が、2050年を目標に「ムーンショット」プロジェクトを立ち上げている。疾患予防、環境再生、AI、量子コンピュータなど9つの領域で、日本発の大胆な発想に基づく挑戦的な研究開発を推進する大型研究プロジェクトだ。
ムーンショットとはアメリカのアポロ計画において人類が初めて月に到着したことと同様に、大胆な挑戦を意味する言葉だそうだ。これからも「電子世界の進撃」は怒涛の勢いで私達の生活や社会の形態を大きく変えてくるに違いない。ITの発展はこれまでも私達の生活や社会の形態を大きく変え、スマホ一つで世界の人々と繋がり、情報を瞬時にやりとりできるなど多くの恩恵を与えてくれている。
物質文明はこのように進化の一途ではあるが、しかし人類は一人一代限りで全ての進化を終える。本能や基本的な感情を持って生まれて来て、社会の中で教育や多くの経験を積み、また人や自然との関わりの中で豊かな感情を体得し成長して(進化して)終わりを迎える。
人類はこれを永々と繰り返してきた。
目まぐるしく発展、進化するIT社会において、我々が人間の尊厳を保ち、アイデンティティを確立して精神的に安定して生きていく為にも魂に響く感動は必須だ。心揺さぶられる美しい音楽、心潤される人の温かみ、感情を刺激する映画、絵画、あらゆる文化、エンターテインメントこそが、人間としての尊厳、アイデンティティの確立を保障するものである。
激変する社会の中で生きて行く我々にとって、国際的な文化交流の持つ意味は大きい。
今日このフォーラムには韓国はもとより、ベトナム、中国、インドネシアなど多くの国々の方が集っている。私達は皆、生まれて来る国を自分で選んだ訳ではない。これからも同じ人間として、共に文化交流に努めていけたらと願っている。