人事断行し総裁選前倒し論も
4月か6月か?飛び交う解散説
永田町では解散権を握る岸田文雄首相が、4月あるいは6月に「伝家の宝刀」を抜き、解散に踏み切るのではないかという憶測が飛び交っている。令和6年度予算の年度内成立が確実になったことで、なかなか打開できない「政治とカネ」の問題を解散断行により活路を見い出したいとの思いが強まっているというのだ。しかし、自民党内だけでなく公明党からも慎重な意見が相次いでおり踏み切るか否か首相の言動が注目されている。
岸田首相は3月4日の参院予算委員会で早期の解散はあるのか問われ、「信頼回復に向けて先頭に立って取り組んでいる。それ以外のことは今考えていない」と否定した。自民党派閥パーティー収入不記載事件が一向に解決せず、政治信頼の回復が最大の課題となっているのは確かだが、これを言葉通り受け止める向きは少ない。
自民党幹部は「安倍(元首相)さんは7年前、森友・加計学園問題による国会の混乱を解散することで打開を図り、大勝利して長期政権となった。岸田首相もそれを真似る可能性はある」と指摘。「タイミングとしては4月28日の衆院3補選投開票日に乗せる形になるのではないか」と続けた。
衆院3補選は、島根1区、長崎3区、東京15区で行われる。島根1区は細田博之前衆院議長の死去によるもので、自民党はすでに元中国財務局長で新人の錦織功政氏の公認を決めているが、立憲民主党の亀井亜紀子氏の知名度には及ばない。長崎3区は裏金事件で略式起訴された谷川弥一前衆院議員の辞職によるもので、公認候補がなかなか決まらない。東京15区も同様だ。前副大臣の柿沢未途被告(自民離党)が公職選挙法違反事件で立件されたためだが、その前には秋元司氏(自民)も立件されていて後任候補者を見つけられない。東京都連会長の萩生田光一氏も裏金疑惑の一人で発言力はガタ落ちだ。
「現状ではよくて1勝2敗。全敗もあり得る」(マスコミ関係者)という。そうなると、岸田首相の責任論が浮上し、“岸田降ろし”の動きが強まる可能性が出てくる。それをばん回するためにも、4月10日の国賓待遇での訪米でバイデン大統領と「不朽の日米同盟」を高らかに打ち出したい考えだ。同関係者によると「バイデン側もトランプ前大統領との対決上、首脳会談を成功させ得点につなげたいと思惑が一致している。岸田首相が支持率をアップして解散に雪崩れ込めば、あわよくば大勝利を収めることができる」というのである。
さらに先の自民党幹部は「勝利後の5月にも党役員・内閣改造人事を行い茂木幹事長を外せば、ポスト岸田の後継の芽はつぶれ、秋の総裁選再選という計算もできる」と解説する。ただ、公明党の山口那津男代表は「信頼を回復するトレンドをつくり出さない限り解散はすべきではない」とくぎを刺す。同党の石井啓一幹事長も「秋が一番可能性が高い」と述べながらも、「6月23日の会期末解散の可能性はゼロではない」との見方を示している。
6月といえば、所得税・住民税計4万円の定額減税が始まるタイミングだ。日銀がマイナス金利の解除とデフレ脱却を春にも宣言して金融政策を転換し賃金アップも多くの企業で約束される。「新しい資本主義」を改めてアピールする好機だと指摘する向きがある。「外交面では北朝鮮の金正恩総書記とのトップ会談が実現するかもしれない」(自民党本部職員)という。首相はこのところ、国会でもマスコミの紙面上でも「直接のトップ会談」実現に向け、水面下で高いレベルの交渉を行っていることを示唆している。
2月9日の衆院予算委員会では「大胆に現状を変えていかなければならない。そのために私自身が主体的に動いて、そしてトップ同士の関係を構築していくことが極めて重要だ」と発言。15日には総書記の妹の与正氏が「関係改善の新たな出口を切り開いていく政治的決断を下すなら、両国はいくらでも新しい未来をともに切り開いていける」と談話を発表した。1月1日の能登半島地震の際には、正恩総書記が岸田首相を「閣下」と呼んで持ち上げ、異例の見舞い電報を打ってきた。
こうした状況を好機と見た首相は「中国やシンガポールで、直接会談を行った場合の双方の成果のすり合わせを繰り返ししているらしい。横田めぐみさんら拉致被害者の帰国が実現すれば自分は突然、ヒーローとなり、世界は自分に注目し政権支持率は一気にアップする。安倍さんにもできなかった国交樹立となれば歴史に名前が刻まれる。『外交の岸田の面目躍如だ』と勝手に思い込んでいる」(同)ようだ。それが5月か6月の時期であれば、解散のタイミングと読むに違いない。
ただ、「解散をやらずに総裁選を前倒しして乗り切る可能性もある」(自民党中堅)との見方もある。自民党は3月17日の党大会で派閥単位で人事に絡むことを禁じたため、党所属議員全ての配置を岸田首相が一人で決められることになった。そのため、皆が岸田派の一員になったと言えないこともない。そこで、「前倒しする総裁選の直前に内閣改造・党役員人事を行い、茂木派から抜け出た小渕優子氏や菅義偉前首相を後見人に持つ小泉進次郎氏あたりを幹事長などの主要ポストに据えてイメージを刷新すれば再選の可能性はさらに大きくなる。唯一、警戒しなければならないのが、地方組織に強い影響力のある石破茂元幹事長だろう」(同)というのだ。
すべては岸田首相の胸先三寸にあるが、その判断基準が総理・総裁としての自分の延命・保身に有利か否かにあるのは間違いない。8日、首相就任から887日を迎え、田中角栄元首相を抜き戦後9位の在職日数となった岸田首相は感想を聞かれ「毎日積み重ねなので、在任期間の長さについては特段申し上げることはない。これからも一つ一つ課題に臨んでいきたい」と淡々と語った。だが、心の中では「来月の22日には橋本龍太郎氏に並ぶ。その次は岸信介氏超えだ」と言い聞かせていたに違いない。