意欲ある若者の進学を後押ししイノベーション産み出す大学へ

文部科学大臣

柴山昌彦氏に聞く

 政治は現実問題の処方箋を必要とする。一方、「教育は国家百年の計」と言われる通り、人を育てる教育に関しては目先の事だけではなく、50年、100年を見越した政策が必要とされる。今年2月、高等教育・研究改革の基本方針「柴山イニシアティブ」を打ち出した柴山昌彦文部科学大臣に、教育改革の絵柄をどう描いているのか聞いた。インタビューは9月4日、文科大臣室で行われた。 

(聞き手=徳田ひとみ本誌論説委員

──我が国の高等教育における人材育成と研究力の向上が急務となっています。大臣は高等教育・研究改革イニシアティブ(柴山イニシアティブ)を出されていますが、それを出された背景、「柴山イニシアティブ」の内容及び現在までの具体的な取り組みはどういったものでしょうか。

 今後、より一層の少子高齢化やグローバル化が進むと共に、日本人大学生の勉強時間の短さが諸外国と比べて顕著となる中で、ソサエティー5・0と言われる先端技術が必要な社会における人材育成とか、あるいはイノベーションを産み出すことができるような大学改革が必要になってくると考えています。

 このため、国として意欲ある若者の進学機会を後押しすることが大事になってくるかと思います。つまり学生やそれを支える家庭の負担の軽減などが焦点になってきます。

 一方、高等教育や研究機関の取り組みの成果に応じた手厚い支援を行うことも必要となります。

 こうした厳格な評価と支援を車の両輪として、高等教育における人材育成と研究力の向上を図っていくつもりです。

 さらに教育や研究など、それぞれの施設のガバナンスをばらばらでなく、一体的に進めるための政策パッケージを今年2月、「高等教育・研究改革イニシアティブ─柴山イニシアティブ」として打ち出しました。

 このイニシアティブを実行するために、真に支援が必要な低所得世帯の高等教育機関へのアクセス機会確保につなげるための大学等における修学の支援に関する法律が成立したばかりです。それを受けて、令和二年度概算要求において必要な経費を要求すると共に、新制度の対象機関の審査、高校三年生について、予約採用手続きを進めているところです。

 それと大学教育の質の保証や教育研究基盤改革については、これらを後押しする学校教育法の一部を改革し、これも修学支援法と合わせて、今年前半の通常国会で成立しました。それを受け、改正内容を周知するための施行周知の発出や、関係する体制など令和2年4月1日の施行に向けた準備を進めているところです。

 また、学修成果の可視化をはじめとする教学マネジメントの確立についても、中央教育審議会で議論を進めているところです。

 さらに「研究力向上改革2019」と銘打って、令和二年度、若手研究者への経済的支援の充実や研究内容における新興・融合領域の開拓強化、また、研究者の裁量を最大限確保した研究費やスマートラボと言われる研究環境などを促進していく経費を計上しています。

 こういったことを推進することで、世界をけん引するトップ大学群のポジションや専門分野をリードすることをそれぞれ形成すると共に、第一戦で活躍する研究者や次の世代を担う学生をしっかり育てることに注力していく方針です。

──宇宙は人類のフロンティアです。ロケット開発はその第一歩となるわけですが、ロケット開発プロジェクトの意義と目標をお聞かせください。

 文部科学省では、我が国がロケットを継続的に打ち上げる技術と能力を所持することが非常に重要だと考えています。来年の2020年度の打ち上げを目指して、H3ロケット(H3)の開発を進めているところです。

 H3は、宇宙航空研究開発機構 (JAXA) と三菱重工業が次期基幹ロケットとして開発中の液体燃料ロケットです。

 このH3は、打上げサービスの国際競争力強化の観点から、ここに模型がありますが、イプシロンロケットとのシナジー対応開発を進めていることころであって、多様なロケット打ち上げへの対応と、運用コストの削減についても取り組んでいるところです。

 なお、ロケット開発プロジェクトの継続的な実施によって、我が国の技術基盤が深まり、今後の宇宙活動を担う人材育成が図られるようになる意義もあると思います。

 これから月探査に向けた準備が進むなど、宇宙開発の国際的な取り組みがますます、加速してくると思います。しっかりと取り組んでいきます。

──毎年開催されてきた日中韓文化大臣会合が8月末に実施されたばかりですが、会合の成果はどういったものだったのでしょうか。

 非常にホットなテーマで、8月29日、30日の両日、韓国の広域市で第11回日中韓文化大臣会合が行われたばかりです。日本からは私と宮田文化庁長官、韓国からは文化体育観光部長官、中国からは文化・観光部長が出席し、日中韓間の文化交流のこれまでの成果や今後の方向性について意見交換が行われました。

 日中韓文化大臣会合というのは、3か国相互の敬意と信頼によって、雨風はありましたが一貫して途絶えることなく、絶え間のない文化交流を含めた会合を重ねてきています。

 会合では、日韓関係が厳しい状況にあるものの、日中韓3カ国における文化交流こそが、3カ国の将来において極めて重要だとの認識が共有されることになったのは意義深いことだったと思います。来年2020年、東アジア文化都市として日本は北九州市、中国は市、韓国は市が決定しました。

 その東アジア都市間の文化交流の推進や、アセアン文化都市および欧州文化都市との交流推進でも一致したところです。

 また来年には東京でのオリンピック、パラリンピックが開催されますが、その間、日中韓共同文化プログラムを実施することでも合意しました。中国と韓国が共同で参画できる方策を、これから検討していきます。

 こうした議論を踏まえた成果を仁川宣言として取りまとめました。

 また仁川では、日韓二国回文化大臣会談も合わせて行いました。

 大臣会合でのやりとりの詳細は控えますが、日韓二国間会談では文化交流を推進する上での諸問題を俎上にあげ、さまざまな論点について率直で有意義な意見交換がなされました。日韓関係が厳しい状況にあるからこそ、二国間の相互理解を図り、国民間の交流など草の根レベルでの絆というのも、継続していく意義は大きく、これからもしっかり続けていくべきだという点では一致しました。

 具合的には、つい先だって行われた日韓交流おまつりなど、文化交流の推進や、先ほど触れた東アジア文化都市のロゴ作成に向けた相互協力などで合意しました。

 さらに東京オリンピック、パラリンピックにおける文化プログラムの共同実施など、前向きで生産的な合意を得ることができました。

 日中二国間文化大臣会談では、博物館同士の協力や技術者派遣など日中文化交流や東アジア文化都市間の一層の交流を推進することで合意しました。2020年東京オリンピック、パラリンピック、2022年には北京冬季オリンピック、パラリンピックが開催されますが、それらを契機とした文化交流、および協力を強化していく方針です。

 こうした意見交換を行い、具体的な協力の在り方について合意した経緯があります。

 この会合の成果を踏まえ、今後、日中韓、あるいは日中、日韓のそれぞれが文化交流事業を推進して相互の関係発展を目指していきたいと思います。

──お疲れ様でした。あちらの雰囲気はいかがでしたか。

 警備はものものしかったのですが、心配しているような混乱もなく、日本のマスコミが大々的に取り上げると同時に、韓国のマスコミも、テレビや新聞でもトップ扱いでした。韓国の新聞にどう扱われているのか心配しましたが、野党系の新聞でも与党系の新聞でも非常に好意的に受け止めてもらえ、意義深く感じました。

──本当に良かった。日中韓は経済・科学・文化の面で大きなポテンシャルを持っています。とりわけ大学においては、日本人留学生の派遣と中国・韓国からの留学生受け入れには大きな意義があると考えます。それらの現状と課題、今後の展望をお聞かせください。

 直近の日本学生支援機構(JASSO)の調査によると、中国への日本人留学者数は7144人、韓国への日本人留学者数は7006人。これはそれぞれ、2017年の調査です。

 そして中国からの留学生数は、それよりけた違いに多く、11万4950人、韓国からの留学生数は1万7012人となっています。これは2018年の時点の数字です。

 特に中国からの留学生数が非常に多いことが分かります。

 中国と韓国との学生交流においては、グローバル人材の育成や我が国の国際競争力の向上などに資する質の高い交流を行うことが大事になると考えています。

 このため、例えば日中韓の大学間の交流では、平成23年度からキャンパスアジアという取り組みを実施しているところです。

 これは3つの国の政府、先ほど柴山イニシアティブといいましたが、質保証機関や大学が、それぞれ協力して大学の国際競争力を向上させるために質の伴ったプログラム、大学間交流を展開していく事業です。

 平成23年度の事業を開始してから、31年度までの8年間で延べ6038人の学生の相互交流が行われてきました。

 こうした取り組みを通じて、日中韓の学生交流を実施していきたいと考えています。

──今の政治的問題もクリアして、これからアジアで日本と中国、韓国が中心となって様々な交流が行われ、さらに発展していくことを望みます。

 特に政治的なこととは関係がなく普遍的な価値を持っている教育の場で、協力のスクラムが組まれる教育事業の意義を強く感じました。

 その一面、マスコミなどで取り上げられた留学生の在籍管理問題が浮上しています。それはわれわれ国内の体制整備問題であることから、きちんと日本語の教育をしたり、在籍管理をしっかり行ったりするなどして、不当な労働力確保の抜け穴にはしない形を作り上げるべきだと思っています。

──じつは今年2月までブータン名誉総領事をしておりました。ブータンでも留学生受け入れ機関や日本語学校の問題が浮上しています。こうしたトラブルを学生と一緒に経験しました。学生たちの苦境や自殺者も出ている現状に心痛めると同時に、親日国であるブータンで、こうした問題を放置したままだと、親日国を嫌日国にしかねないと危惧します。日本の将来の子供たちにとっても大事なことですので、しっかりした取り組みに期待します。

 先の通常国会では、いろいろな法律が成立した一方で、そういった問題もたくさん取り上げられました。もちろん、文部科学省だけで解決できる問題ではなく、政府一丸となって取り組みを進めていきます。

しばやま・まさひこ
昭和40年12月5日、愛知県生まれ。東京大学法学部卒、住友不動産株式会社入社。平成12年弁護士登録(東京弁護士会)。平成16年4月、衆議院議員初当選(以来、連続6回当選)、外務大臣政務官2期、総務副大臣、衆議院内閣常任委員長、内閣総理大臣補佐官、自民党筆頭副幹事長(兼総裁特別補佐)歴任。趣味はカラオケ。空手二段。好物はカレーライスに狭山茶。

柴山昌彦

【聞き手プロフィール】

とくだ ひとみ
1970年3月、日本女子大学文学部社会福祉科卒業。1977年4月、徳田塾主宰。2002年、経済団体日本経営者同友会代表理事に就任。2006年、NPO国連友好協会代表理事に就任。2010年4月、在東京ブータン王国名誉総領事に就任。本誌論説委員。