衆院解散への警戒感漂う野党 11月下旬想定し共同選対作り

首相決断、来秋に先延ばしも

 年内に衆院の解散総選挙があるのでは、との警戒感が野党内に漂っている。参院選前の「安倍首相・麻生副総理」会談で「年内にも解散する」との〝密約〟があったとの情報がその根拠の一つだ。立憲民主党や国民民主党など主要野党は統一会派の実現へ動き出し、共同選対を作る方向で調整している。安倍首相としては、10月の消費税増税導入後の国民世論を読み取る材料として10月27日の埼玉県参院補欠選挙を念頭に入れており、結果次第では11月下旬に解散に踏み切る可能性もある。ただ、厳しいと判断すれば来年のオリンピック後の秋に延期することになるとの見方が強い。

新天皇即位後がタイミング?

 「参院選後のそう遠くない時期に、衆院の解散総選挙に踏み切るとの合意が6月25日に官邸で行われた首相と麻生太郎副総理との会談でできていたようだ」と語るのは自民党幹部だ。本来なら両氏は、衆参ダブル選挙に持ち込みたかったのだが、金融庁の「老後2千万円必要」報告書問題が原因で政権サイドが守勢に立たされ参院単独の選挙になってしまった。過去2回、消費税増税の延期の判断を国民に問うため衆院選を行ってきたことから、今回も10月増税を控えそれをテーマに掲げて勝利し、国民の了解を得た形にしたかったのが両氏の思惑だった。

 同幹部は、「そう遠くない時期とは年内ということだろう」と読む。ただ、解散を打つ首相本人にとって一番気になるのが、消費税率10%への引き上げによる国民世論の動向だ。導入したことにより国民の不満がどれほど大きくなったのか。それを測れる材料の一つが10月27日に実施される埼玉県参院補欠選挙の結果なのである。消費増税導入後初の国政選挙であるからだ。

 同補欠選挙は、8月25日投開票の埼玉県知事選に立候補し当選した野党系の大野元裕・前参院議員の欠員を埋めるためのもの。与党は参院選で改選定数の過半数の議席を確保して勝利し、その勢いで同県知事の議席奪還を図っていた。当初は与党候補がリードしているとの見方が強かったが徐々に劣勢に追い込まれ、約5万7000票差に広げられた。「努力不足を反省したい。補選に向けて今回の結果をしっかり検証した上で取り組む」(甘利明選挙対策委員長)との敗戦の弁となった。

 しかし、野党側は参院選直後のため資金が欠乏し、年内解散なら300小選挙区で戦えないとの見方もある。共産党などは、党資金の9割を占める「しんぶん赤旗」の減紙がとまらず、「党活動の強化が求められているそのときにその支えとなる財政が足りない──これほど悔しいことはありません。総選挙をたたかう財政の備蓄もこれからです」(同紙8月29日付)と悲鳴を上げている。

 「仮に、補欠選挙で消費増税の影響がほとんどないとの判断に傾けば、11月14日の『大嘗祭』で新天皇即位の関連行事がひと区切りした後が解散のタイミングになるのではないか」と前出の幹部は見通す。   

 これに対して、野党側は「埼玉県知事選勝利は野党がしっかり協力して戦った成果だ。補選や他の都道府県知事選も協力して臨んでいきたい」(立憲・福山哲郎幹事長)とし反転攻勢に出る意欲を前面に出している。さらに埼玉参院補欠選挙では、今回の知事選の裏方でフル回転し、同知事を4期16年務めた上田清司氏の出馬が取り沙汰されており、野党としては流れを変える好機として共闘体制を強化したい考えだ。

 だが「そのための取り組みは野合としか言いようがない」とある政界関係者は指摘する。立憲は当初、参院選でしこりの残らない衆院だけで統一会派を作ろうと国民民主に呼び掛けた。ところが、国民民主側は作るなら衆参両院でと応じた。結局、両党代表による8月20日の会談で、衆参両院で統一会派を組む方向となった。安全保障、エネルギーなどの基本政策が全く違うにもかかわらずだ。

 そして、国民民主の玉木雄一郎代表は、立憲の枝野幸男代表と合意した統一会派結成に向けての運営協議会について「選挙における調整と協議だ」と明らかにした。そのうえで、「早ければ年内に衆議院の解散・総選挙はあるという前提で、強力な構えを選挙態勢において構築していかねばならない」と述べ、共同選対の設置を目指す考えを語った。

 結局は選挙対策のための統一会派なのである。

 一方、「今の安倍首相の腹の内は、何が何でも解散を、という考えは薄れてきているのではないか」とは、自民党関係者(中堅)の弁だ。埼玉県知事選敗北でつまずき、消費増税も行うのに選挙をできるわけがないというのである。「現在占めている改憲勢力の3分の2を失う危険性もある。ロシアとの北方領土返還交渉は行き詰まり、日朝首脳会談の実現などの見通しも全く立っておらず外交面での大きな成果を上げていない。何のための解散か、の大義を見出すのが難しい」と同関係者は続ける。

 その上で、同氏は、東京五輪・パラリンピックが来夏に控えているので、その後ではないかと言う。来秋になると、衆院議員の任期は1年と迫ってくる。その時までに憲法改正の議論を積み重ね、改憲議論が進んでいてもいなくても「改憲の必要性」を旗印として国民に審判を委ねるというのだ。翌21年になると、任期満了に限りなく近くなり追い込まれ総選挙の色が濃くなってしまう。

 こうしたことから、衆院解散は早ければ11月下旬、本命は来秋になると見られる。

衆参両院で統一会派を組むことになった国民民主の玉木氏(左)と立憲の枝野代表