中古レコードの復活物語 絶滅危惧種がよみがえる
古いものにもいいものがある。そして、その価値が分かるようになると、時代から取り残されているようではあっても、復活の花道は用意されている。
今、わが国の中古レコード店が外国人観光客の人気スポットになっている。
例えば、下北沢にあるフラッシュ・ディスク・ランチという中古レコード店は、外国人ミュージシャンがしばしば訪れる店にもなっている。
人が1人やっと通れるほどの通路の両側に、木製のレコード棚がずらりと並び、レコードが詰まってもいる段ボール箱も積まれた状態のまま置かれている。
店頭にあるレコード数が1万5000枚。ロックやジャズ、映画のサントラ盤など多様な音楽が所狭しと並ぶ。
この店は、特にブラックミュージックの品揃えで有名だ。年代も1960年代から最近のものまで揃え、洋楽の輸入盤もあるし、国内で販売されたものもある。値段も300円から3万円程度とお手頃価格だ。
とにかく、ここにくれば大体の名盤は見つかるというのがありがたい。
倉庫にも1万5000枚の在庫レコードが納められている。
平日の昼間は、日本人客より外国人で店はあふれている。
だが、つい最近までいつ廃業になってもおかしくない状況があった。
CDなどの売り上げは最近とみに、ネットの音楽配信に押され落ち込み、3年ほど前には、店の継続自体が危ぶまれる程だったからだ。
しかし、5年ほど前から外国人旅行者が来るようになった。さらに母国にレコード店がないオーストラリア人らの愛好者も訪れるようになった。
やがて、このレコード店の品ぞろえの豊富さが、ネット世界を通じて評判が世界に及び、欧米客らの来店が引きもきらなくなった。
その結果、経営も安定してきた。まさに存亡の危機を一度は迎えながら、外国人旅行者に崖っぷちから救われた格好だ。
ユニオンレコードも同じように、新宿店などで外国人客が急増中だ。
なぜ、人気なのか。
日本の中古レコード店にはこだわりの店主が、海外に出かけていっては集収に余念がなく、まずはコレクションが半端じゃない。
さらに日本では、アナログレコードを大事に扱ってきた文化がある。
スプレーを吹きかけ、ラシャなどできれいに拭いて、傷がつかないように気を使った。指紋もつけないように、手で触っちゃいけないというのが不文律でもあった。だから、端っこを押さえる恰好で盤に乗せていた。一方、海外ではレコードは消耗品だ。
だから、日本の中古品レコードの保存状態が世界で際立っていい。それで古くてもいい音で聞ける。それが外国人には、新鮮なのだ。古き良き音楽世界が日本に残っていたからだ。
さらに新宿や下北沢、吉祥寺、渋谷には中古レコード店が密集しており、はしごが楽しめる。
また、レコードジャケットに帯が付いていて、そこに日本語でどういう曲が入っているとか、解説がついていたりする。これも日本独特の文化で、付加価値がついたコレクションアイテムとして人気がある。
さらにネット配信では物足りなくて、レコードのアルバムとしての収録曲の順番なども、それなりのメッセージを持っていることから、これを再評価する人も増えている。
一時期、レコードは絶滅を危惧されたものの、実はレコード人気は回復基調にあり、2016年の生産枚数が16年ぶりに100万枚を突破。この7年で10倍以上となった。
何でもネットの世界から、手触りのあるパッケージメディアが見直されている。中古レコード店もそれに一役買っているわけだ。