激しさ増すもう一つの憲法論争

「同性婚」めぐる与野党の攻防

 同性カップルの婚姻を認める「同性婚」を導入する先進西欧諸国の影響を受けて、同性婚推進派の動きが活発化するにともない、伝統的な家族を守ろうとする保守派政治家との軋轢が激しさを増している。

1月30日の参院予算委員会。「G7で、同性婚など同性カップルを保証する制度を導入していないのは日本だけだ」と、同性婚の法制化を求めたのは、立憲民主党の石川大我参院議員。

 同性愛者であることを公表している石川氏は豊島区議を2期務めたあと、昨年の参院選全国比例区で「日本にも同性婚を」を掲げて初当選した。同性婚の実現は、同氏にとっての、いわば選挙公約である。

 これに対し、安倍首相は「憲法24条は『婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立する』と定めており、現行憲法の下では同性カップルに婚姻の成立は想定されない」と一蹴した。さらに「同性婚を認めるために、憲法を改正すべきかどうかは議論されてしかるべきかもしれないが」と言葉を選びながら、「(同性婚の是非は)わが国の家族の在り方の根幹にかかわる問題であり、極めて慎重な検討を要する」と念を押した。

 婚姻について現行憲法は男女を前提としているとの政府見解からすれば、同性婚を法制化するには憲法を改正する必要がある。この憲法論議に関して、昨年秋、自民党内に波紋を広げる幹部発言があった。下村博文選挙対策委員長が9条への自衛隊明記などのほかに、憲法改正項目として24条の「両性の合意」を「当事者の合意」に書き換える案を示した。

 これは同性婚実現のためには憲法を改正する必要があることを示すことで、停滞する衆参両院の憲法審査会の議論を加速させようとの狙いがあった。しかし、「自民党は憲法改正し同性婚を実現させようとしている」との誤解が生まれたことから、党内から反発が起きた。結局、保守派で伝統的な家族の価値を重視する下村氏が24条を改正する意図はないと、釈明に追われた経緯がある。

 一方、同性婚推進派の国会議員は護憲派がほとんどで、たとえ同性婚のためとは言え、憲法改憲の〝土俵〟には絶対上がれないから24条の解釈論議に持ち込む以外に道はない。石川氏は「同性婚ができないことを憲法のせいにしている」と、トンチンカンな安倍首相批判を行う一方で、森まさこ法相に「同性婚の導入を法制審議会にかけてほしい」と要請するのがやっとだった。法制審にかけた場合、同性婚推進に向かわないという保証はないので、森法相は「国民の議論を待ちたい」と、やんわりいなした。

 それでも、このところ、同性婚推進派の動きが加速しているのは事実。昨年、同性婚の法制化を求める憲法訴訟が全国5都市で提起された。政界でも立憲民主、共産、社民の野党3党は6月に、同性婚を実現させるための民法改正案(婚姻平等法案)を提出した。これは若者層で同性婚に賛成する割合が7割を超えるとの世論調査があることから、参院選における票集めを狙ったパフォーマンスと見られた。実際、与党の反対で審議入りの見通しはたっておらず、棚ざらしの状態が続く。

 昨夏の参院選には、いわゆる「LGBT」(性的少数者)の当事者3人が立候補した。世論調査の信憑性が計れることから、3候補のうち何人当選するか、注目されたが、結果は、一定の知名度を持つ石川氏だけの当選となって、LGBTブームはまだ表層的な次元に止まっていることを浮き彫りにした。

 それでも、日本共産党は今年1月に、16年ぶりに改定した党綱領を改訂し、「ジェンダー平等社会をつくる」「性的指向と性自認を理由とする差別をなくす」を加えた。東京五輪が7月に開幕するが、五輪憲章が差別禁止対象に「性的指向」を入れたことなどを意識し、党のイメージアップにつなげようとの思惑がすけて見える。

 一方、自民党内の保守派たちも、同性愛者などに寛容になっている国際社会の動きは無視できない。

 昨年11月に、衆院第2議員会館で、「第1回マリフォー国会」と名付けた集会が開かれた。主催したのは、一般社団法人「Marriage For All Japan—結婚の自由をすべての人に」。この団体は、同性婚の実現を求める憲法訴訟の原告側弁護士らが中心となって設立したもので、集会には石川氏やレズビアンであることを「カミングアウト」して活動を続けてきた立憲民主党の尾辻かな子衆院議員のほか、与野党から26人の国会議員がかけつけ、そのうち23人が次々にスピーチ。「憲法24条には『婚姻は両性の合意に基づいて』と書いてある。これは当事者の合意だけでは婚姻できなかった時代に対して、憲法が(婚姻は)自由であることを示しただけ」(日本維新の会・串田誠一衆院議員)などと、現行憲法下での同性婚実現に気勢を上げた。

 党幹部クラスで参加した筆頭は国民民主党の玉木雄一郎代表。「わが党は、同性婚を認めるかどうかはまだ最終的な結論は得ていないが、私は代表として認めるべきだと思っている。その方向で党内をまとめていきたい」と約束した。

 自民党からは齋藤健衆院議員、三原朝彦衆院議員(スピーチなし)が駆け付けたほか、河野太郎・防衛相と武井俊輔衆院議員がメッセージを寄せた。メッセージ寄稿当時、外相だった河野氏は「外務大臣夫妻主催天皇誕生日祝賀レセプションを始めとする外務省主催行事においては、法律婚・事実婚、あるいは同性・異性にかかわらず、配偶者またはパートナーを接遇しています。外務省として、性的指向少数者に対する理解促進への取り組みに引き続き関与していく考えです」と強調した。

 結婚は男女に限定しているとの憲法解釈の下、現行の婚姻制度を守りながら、性的少数者への理解を促進したい考えの自民党と、現行憲法は同性婚を禁じていないとする野党議員をはじめとした促進派との攻防は今後激しさを増すのは間違いない。