尖閣対応で海保再編、大型巡視船も

海洋覇権狙う中国に隙見せてはだめ

 中国が虎視眈々と尖閣諸島を狙っている。コロナ・ウイルスによる新型肺炎で中国はそれどころではないという意見もあろうが、中国がまず考えていることは共産党政権の維持だ。

 新型肺炎のまん延で共産党政権の求心力が急低下するようなことがあれば、北京政府はその挽回策として台湾を取りにくる可能性がある。

 国家主席の任期を撤廃し永久政権の法的基盤を整備した習近平国家主席ながら、建国の父である毛沢東や経済発展の礎を築いた鄧小平のような実績に乏しい習近平氏にとって台湾統一こそは悲願でもある。毛沢東は蒋介石率いる国民党との内戦に打ち勝つが、台湾に逃げ込んだ国民党を壊滅させることはできなかった。改革開放路線で中国を経済発展させた鄧小平は香港返還の実績はあるものの、民族の悲願であった台湾統一には手が付けられなかった。

 その意味からでも、日本の統治時代に日章旗を翻し、今、青天白日旗が翻る台湾総督府の上に中国の五星紅旗を翻せば、習近平の権力基盤は絶対的なものになることは間違いがない。

 その意味では中国にとってまず台湾の優先順位が高いのは事実だが、その次には尖閣諸島がターゲットになるのは火を見るより明らかだ。

 中国は南沙諸島などでは力技で強引に取ってきているし、米第7艦隊がいなければ尖閣諸島もやったかもしれないだけの話だ。

 地政学的環境が変わって尖閣強奪が可能となれば、中国は本気で尖閣を取りに来るのではと懸念する安全保障専門家も少なくない。

 今、中国が頻繁に接続水域や領海に入るようになり、尖閣対応ということで組織の再整備が始まっている。その意味では、平和的保安業務に徹してきた我が国の海上保安体制もダイナミックに変わる時期を迎えている。

 現場では船の大きさの違いが如実に出ることから大型巡視船を投入するようになってきているが、武器のありようも我が国は少し考えないといけない。

 相手は事実上の軍艦だ。中国の海上保安は、「海警」という海上保安船が担当するが、これが元は軍艦だったりする。

 海警は命令指揮系統も人民解放軍の下に入ってもいる。日本は法的にも制約があって、手足を縛られている格好だが随分違う。どう違うのかというと、巡視船は海の法を守るパトロール船であり、同時に海のパトカーや救急車でもある。

 海保初代長官は「正義仁愛」をモットーに掲げた。法の執行という意味では正義であり、人命救助もある。法律論だけではなく、仁愛精神があるのが保安庁だ。

 一方の「海警」は法の執行機関という任務だけで、海上交通安全業務や海上捜索救助業務は任務外だ。

 中国には「五龍」と呼ばれる五つの海上法執行機関が存在していた。「五龍」とは、中国公安辺防海警に属していた「海警」、国土資源部国家海洋局の「海監」、農業部魚業局の「漁政」、交通運輸部海事局の「海巡」、そして海関総署の「海関」だ。

 2013年にこのうちの4機関を一本化し、「中国海警局」とした。

 尖閣諸島の周辺海域でも、中国漁船が押し寄せる際には、「海警」が登場するし、単独で「海警」の公船が領海に侵入することもある。こうした格好で中国は海洋進出を既成事実化させ、現在の海洋秩序に揺さぶりをかける。

 海上保安庁は2019年現在、巡視船艇・特殊警備救難艇を計443隻、測量船・灯台見回り船・教育業務用船を計22隻、航空機80機を保有している。

 これらの巡視船艇を全国11の管区に分け、配属している。

 尖閣諸島周辺の海域における中国船の領海侵入へ対処するため、海保は大型巡視船の新規建造を迫られた。

 気象が厳しく中国公船の領海侵入に対処する「尖閣領海警備」では大型巡視船が投入され、沖縄県石垣島にある石垣海上保安部には、大型巡視船13隻が配備されるなど、日本で最大規模となっている。

 那覇には4隻の大型巡視船が配備され、第11管区全体では大型巡視船は18隻を数える。それほど中国公船の領海侵入、さらに多数の中国漁船による違法操業が多発していることを示している。

 また、離島を狙われた場合の対処では、海保だけではできないから、自衛隊や警察との協力体制が整備されつつある。上陸したら陸上だから、管轄は警察担当となるが、警察がくるまでは海保が代わりにやるという法改正を一昨年したばかりだ。

 これまでは隙間があったが、この隙間がないようにしている。この隙間をなくすことが肝要だ。不法侵入者を海保が追っても、丘に上がると何もできなくなるようではどうしようもない。

 米軍もそれを想定し、離島奪還作戦を練り海兵隊を動かした離島奪還訓練を行っている。あれは尖閣のことだ。それを中国に見せて牽制している。

 なお、注意しないといけないのは海の現場だけではない。

 中国の戦い方は「世論戦、心理戦、法律戦」の三戦を駆使してくる。

 ソ連崩壊直後の1992年に「領海法」を制定して、尖閣諸島の中国領有権を定めたのも法律戦の1つだ。

 中国は南シナ海の島々への実効支配を強めるのみならず、他国船舶の無害通航権を制限する法律を制定し、国際秩序を一方的に書き換えようとしている。

 こうしたやり方に対処するには、こちら側の法的整備と同時に、実効支配の実務面で隙を与えないことだ。