バイデンは裏の裏がある男 日本外交は再構築する必要

元金融・郵政改革担当大臣

亀井静香氏に聞く

 米大統領選挙は民主党のバイデン前副大統領が勝利を確実にした。中国の台頭が顕著になる中での米政権の交代で、我が国の外交はどうあるべきなのか。また歴代最長政権を担った安倍前政権の評価と、スタートした菅新政権への期待を元金融・郵政改革担当大臣の亀井静香氏に聞いた。
(聞き手=松田学本誌論説委員長)

──米大統領選挙をどうご覧になっていますか?
バイデンだとややこしくなるかもしれない。裏の裏がある男だからね。その意味では、トランプの方が分かりやすかった。

──裏の裏というと、中国との関係を指しているのでしょうか?
特に中国との関係が問題となる。その関係を含めてのことだ。

──中国に対して強いことが言えなくなる?
大統領になってみればアメリカも大国だから、習近平も少しは遠慮するだろうけど、基本的に外交は力関係だ。

──バイデンはボケているという話もあり、実際はハリス副大統領が仕切るのではないかとの話も出てきています。
それは困った話だな。大統領になる前にボケてるようではしょうがないだろう。ただ、今までトランプとの関係でうまくやってきた日本の外交というのは、再構築する必要がある。

──歴代最長の7年8カ月となった安倍政権は、最長安定政権にふさわしい成果をあげたと考えられますか。先生がご覧になってどのように評価されますか。
簡単にいうと、「牛のよだれ」政権だ。やるべきことをきちっとやれなかった。憲法改正にしても、何も9条だけの問題じゃない。自主憲法制定が自民党の党是だから、党是にさえ手を付けなかった。ということはやらなかったということと同じことだ。
9条問題にしても、自衛隊が違憲だなどと誰も思っていないのだから、それを議論すること自体がナンセンスなんだ。憲法前文で天皇陛下を大統領みたいに、国民の総意に基づきと書いてあるだろう。これがマッカーサー憲法の正体なんだ。
天皇の存在は国民の総意に基づいて作られたものですか。国民が先にいて後から天皇を作ったのではない、天照大神の時代から天皇と国民は同時に存在していた。それが日本の成り立ちでしょう。そういう国家の根本を根底から誤っている前文と1条を、安倍政権は変えようとしなかったんだよ。筋金入りの改憲論者と言われている前総理も、真の改憲論者ではなかったのだ。
それを全部、変えてしまう。それこそが憲法改正だ。
また、経済も弱肉強食の風潮が強くなった。それと東京一極集中、地方が疲弊する状況になっていっているから、安倍前政権にはあまりいい点数をあげられないね。

──民主党政権と比べて経済はよくなったと評価する人も多いですが。
アベノミクスというけど、あれは強者の経済だ。

──スタートした菅政権に対しては?
彼は百姓だからね。原敬以来、久しぶりに庶民宰相としての真価を発揮してもらいたい。決して光り輝く政権を考えてはいけない。鉛やいぶし銀のような政権とならないといけない。

──さっそく菅政権は携帯電話料金の引き下げとか、デジタル庁だとか不妊治療の保険適用とかいろいろと出してきていますが、どういうところに着目しますか?
そういう小手先のことばっかりやるようじゃだめだ。この世の中、便利便利といってもしょうがない。大事なのは、心豊かな社会を作ることだ。
そういう意味では、地方文化に力を入れるべきだ。彼は秋田県出身だから、田舎の文化を体で知っている。これを振興する政策を打たないとダメだな。
夏祭り、秋祭りと地方には長い伝統のある文化行事もある。そういうものを振興する政治でないといけない。東京中心の文化じゃダメなんだ。
古来、日本民族は鎮守の森を中心として酒を酌み交わしながら「田植えどうすべえ」「稲刈りどうすべえ」と話し合って物事を決めてきた。そういう土着の政治に回帰しなければならない。
しかし、秀吉もそうだけど、トップに上り詰めるとキンキラキンが好きになってしまう。
だから今、竹中平蔵みたいなものに色目使い出したろ。これは危険信号だ。
そんなことをやっていたら菅政権は、長く持たない。そう思う。

──小泉政権の構造改革みたいな性格もあるように思いますが?
小泉政権の場合は、あれは欲望資本主義を野に放つ新自由主義だからね。

──そうならないようにしないといけないと思います。ところで、臨時国会では、論議の中心が日本学術会議の問題となっています。
これはね。学術会議なんて民間でしょう。民間の団体に政府が補助金を出してもいいのだけれど、学問や芸術、文化に関しては、口出しはしてはいけない。これをちゃんと守らないといけない。
政治が学問、芸術、文化に口出しするようになると、国民の心が委縮する。それをやっちゃいかん。

──新型コロナウイルスの騒動が世界中でずっと続いていますが、この事態をどう考えたらよいと思いますか?
人類はどんどん文明を発達させて、最後は皮肉な話だけれど、虫に食われて死ぬ。これが人類の運命だ。氷河時代も生き残ったのかもしれないが、しょうがない。
だけど、人類の全知力、全能力、あらゆるものをつぎ込んで、虫に食われないように最後の抵抗を試みるため、世界中が協力していかないといかんな。

──人類が滅びるかもしれない大きな話だということですか?
すべてがつながっている今、局地的なことはない。グローバルな全世界的な話だ。

──経済活動を止めてもコロナを封印しようとするのと、経済活動の再開を重視するのと、どちらが正しいとお考えでしょうか?
経済活動を全部ストップして、それでコロナ退治をするとしたら人間死んじゃうよ。そもそも人と人が接触しない生活というものは、存在しない。それだとみんな死んでしまう。死なないことを考えないといけない。人と人の接触をやめるなんてことは続かないんだ。

──接触して感染して犠牲者が出るのはしょうがない?
人間というのは風邪やインフルエンザだって死ぬのだから。

──それはその通りですね。
そうだろう。人間は必ず死ぬ運命にある。交通事故だって死ぬし、肺結核でも死んでいる。

──菅総理はアメリカのポンペオ国務長官との会談後、最初の外遊先としてベトナム、インドネシアを訪問し、日米同盟を基軸としたインド・太平洋構想を推進していく外交路線を明確に示したところですが、日本の外交・安全保障の基本路線はどうあるべきだとお考えでしょうか。
世界中と仲良くしないといけない。

──万遍なくということでしょうか?
アメリカばかりを見ることはない。日本はアメリカのポチだと思われているけどね。飼い主ばかりを見ていていいことはない。今はね、飼い主がポチに餌をくれるどころか、ポチの餌もとりあげるんだ。

──米中関係がすごいことになって米中デカップリングが進む中にあって、日本はどうしたらいいとお考えですか?
けんかしたらしょうがない。お互いにさせときゃいいじゃないの。日本が仲裁に入ったってしょうがない。

──日本は米中のいずれとも同じように仲良くする?
けんかするなら、させとけばいい。両方の仲が悪くても、日本が得することはあるからな。これを昔から漁夫の利という。よその国の仲がいいか悪いかまで、おせっかいなことを考える必要はない。
われわれは、バイデンのポチになってもいかんし、習近平のポチになってもいかんということだ。
菅政権はそれを心掛けないといけない。
だからアメリカとは安保条約なんて破棄したらいい。
アメリカに日本を守ってもらう必要など、全然ない。
そうでしょう。
東アジアの安全保障というけれども、アメリカが軍事基地を置いているから、日本が守られているのではない。
極東の最前線にある、あくまでアメリカのための基地なのだ。
日本のための基地じゃない。
北朝鮮に対してはイージス艦あたりを配置して、やってくれば撃ち落とすぞと、守りをしっかりすればいい。

──イージスアショアもイージス艦でやるという方向になったようですからね。
日本はアメリカにべらぼうな金を出しているのに、アメリカの要求は盗人たけだけしいというんだよ。
アメリカには出ていってもらって、一向に困らない。
日本はまだ、占領されたままになっている。
占領した時の軍事基地をそのまま持っている。
沖縄から横須賀を含めて全部そうだ。アメリカがこうした日本の軍事基地を好き放題に使っているのは事実だ。沖縄だけでなく、東京都のど真ん中にも横田基地があり、他にも厚木など首都圏は基地だらけだ。しかも米兵に対する司法権は地位協定で極端に認められていない。日米関係はきわめて片務的で日本はアメリカの従属国のようだ。
それをよく黙っているよな。

──自主憲法と自主防衛でいくということですか。
独立国家であれば当たり前の話だ。
日本人がいつの間にか、アメリカのポチであることが当たり前だと思ってしまっている。
そうした犬根性からの脱却が必要だ。
駐留費を上げるかどうかという前に、まず日米地位協定をちゃんと改定すべきだ。ドイツやイタリアだってちゃんとやっている。
裁判権を持たないようじゃ、どうしようもない。独立国家とはいえない。
安倍政権もこれには手を付けようとはしかなった。
だから何もしない「牛のよだれ」政権というんだ。

──日本と韓国の関係はどうすべきだとお考えですか?
日本と韓国は兄弟みたいなものだ。だからこそ時々、兄弟喧嘩するんだよ。しかし、それでもやっぱり兄弟なんだよ。お互いに協力しないと、お互いにやっていけない。
かつて日本は植民地的支配をしたという、やっちゃならん歴史を抱えているけれども、しかし、朝鮮半島を通じて日本に文化が入ってきた面もあるし、一緒になって生活した面もある。
だから、長い歴史的絆で結ばれる隣人と喧嘩してはいけない。仲良くしないといけない。

──けんかを売ってきているのは韓国だと思いますが?
それは兄弟だからけんかもする。だけど、あくまで兄弟げんかなんだ。本気でやっちゃいかん。

──もう少し、大きく構えた方がいい?
そういうことだ。過去の歴史で韓国人が一時、日本国民になったわけだけど、日本は韓国に対しやってはならないこともやっている。
これもまた事実だ。やった方は忘れちゃうけど、やられた方は覚えている。それで、大昔のことはいいじゃないかとばっかりは言っておれない。
だからこそ、心を冷やしてやる。そういう努力もしなければいけないな。

──そこは兄貴分としての度量が問われるところだということですね。さて、コロナパンデミックが社会を大きく変えるとされていますが、これからの人類社会はどのような方向に進んでいくとお考えでしょうか。
さっきも言ったが、虫に食われて人類が滅びる危険があるということだ。

──それで終わりなんでしょうか? 人類に未来はない?
大宇宙の中でも星は消えていっている。人類だけが例外ということがあるはずもないでしょうが。あると思うの?

──それはもっと先の未来のことでは?
百年も一瞬、千年も一瞬、大宇宙からみれば、そんなものだ。

──ですが、やはり希望をもっていきたいと思います。
その中でうごめいていればいい。何も絶望することはない。

──そうした中で日本の役割や存在感をどのように築いていくべきなのでしょうか? 日本は世界の中でどんな国をめざしていくべきなのでしょうか?
「敷島の大和心を人問はば朝日ににほふ山ざくら花」と本居宣長が詠んだ。そういう風でないといかんな。
物質文明だけの、そんな日本じゃいかんな。コンクリートとプラスチックだけで固めた、味も素っ気もないような国にしてはいかん。東京中心で地方は干からびているようなことじゃいかん。
政治も地方にもっと金を出さなければならない。地方にどんどん金を出していく。中小零細企業にも、しっかりと金を回していく。

──最後に、政局ですが、菅政権は長期政権になれるのでしょうか、短期政権で終わってしまうでしょうか?
原敬以後、久しぶりに庶民宰相が生まれた。菅首相はキラキラする家系の中から生まれたわけじゃなく、それなりに登場した意味があると思う。
だから、土のにおいのする政権になれる可能性がある。土のにおいが消えていったら、菅政権の存在価値はない。ところが、太閤秀吉もそうだったが、なってしまうと黄金に魅入られる誘惑にかられる。
菅政権も、同じ兆候が出てきている。竹中のような新自由主義者達に取り込まれるような事になったら、これは自殺行為だ。そうなると短期政権だな。

かめい しずか

1936年11月1日、広島県庄原市生まれ。東京大学経済学部を卒業後、サラリーマンを経て警察庁に入庁。配属された警察庁警備局で極左事件に関する初代責任者となり、成田空港事件(東峰十字路事件)、あさま山荘事件、テルアビブ空港乱射事件などの陣頭指揮を執った警察庁長官官房調査官を最後に退官。退官時の階級は警視正。退官後、衆議院議員になり、長らく自由民主党に所属。運輸大臣、建設大臣、自由民主党政務調査会長を歴任。自民党離党後は国民新党代表、内閣府特命担当大臣(金融担当)などを歴任、中小企業金融円滑化法の成立に尽力した。昨秋、「一緒にやっていく相棒がいない」として政界から引退した。著書に「死刑廃止論」「晋三よ! 国滅ぼしたもうことなかれ」「亀井静香が吠える」など多数。

亀井静香

【聞き手プロフィール】

まつだ まなぶ
1981年東京大学卒、同年大蔵省入省、内閣審議官、本省課長、東京医科歯科大学教授、郵貯簡保管理機構理事等を経て、2010年国政進出のため財務省を退官、12年日本維新の会より衆議院議員に当選、同党国会議員団副幹事長、衆院内閣委員会理事、次世代の党政調会長代理等を歴任。現在は東京大学大学院客員教授のほか様々な役職。著書は「国力倍増論」、「サイバーセキュリティと仮想通貨が日本を救う」など多数。