衆院解散総選挙
10月に先送りの可能性も
1月の通常国会冒頭か
菅義偉首相はいつ衆院解散総選挙に踏み切るのか。菅政権の発足当初、報道各社の世論調査で7割前後となった高支持率を背景に、自民党内では年内解散があるのではないか、との見方が強かったが、それは遠のいた。このところ、与党の自民、公明幹部から「年明けの1月解散」の可能性が繰り返し語られており、政界には緊張感が漂っている。
衆議院の任期満了まで1年を切った。つまり、1年以内に必ず総選挙が行われる。菅政権が9月に発足するや年内解散のアドバルーンが自民党幹部らから次々とあげられた。ところが、菅首相は「新型コロナウイルス対策と経済再生の両立が最優先課題だ」とし、携帯電話の料金引き下げやデジタル化の推進など国民生活に身近な政策を矢継ぎ早に打ち出した。10月29日の衆院本会議でも「新型コロナと経済再生が最優先」と繰り返したことでタイムスケジュール上、年内解散の観測は後退した。
その一方で、自民党の二階俊博幹事長が10月20日、「衆院解散は首相の一存だ。任期があと1年となればいよいよだ。われわれはいつでもそれに対処する心の準備はできている」と語った。この二階発言について自民党幹部はこう解説する。「携帯電話料金の4割引き下げは12月中に可能だ。加えて不妊治療の保険適用の工程表公表やデジタル庁新設に向けた基本方針の公表も年末までにできる。いわゆる『アーリー・スモール・サクセス』だ。この小さな成果を目に見える形にすることこそが解散の準備となる。つまり、解散はそう遠くないということだ」
支持母体の創価学会との関係で選挙に敏感な公明党の石井啓一幹事長も11月6日放送のBS11番組で、衆院解散・総選挙の時期について「年内の可能性は低いのではないか」との見方を示した上で、「任期満了まで1年を切っている。常在戦場という覚悟で取り組んでいかなければいけない。来年1月の通常国会冒頭の可能性もある」と述べた。
この来年1月の解散説は自民党の下村博文政調会長も7日、北海道苫小牧市で開かれた党会合で「年内はないと思うが、年明け早々の可能性はある」と語った点で共通している。ただ、両党幹部の発言で不透明なのが「1月のいつか」という点だ。通常国会は毎年、1月20日頃に召集される。ところが、下村政調会長は「年明け早々」と述べた。そのことは、通常国会が1月4日に召集される可能性があるということを意味している。2016年の安倍政権の時も1月4日に召集し参院選に臨んだことがある。「召集して即解散を宣言すれば、憲法上、40日以内に総選挙となるので、投開票日は2月7日になるだろう。2月23日の天皇誕生日前には第2次菅政権をスタートさせることができる」(自民党幹部)というのだ。
また、追加経済対策を盛り込み「菅カラー」の施策に重点配分する20年度第3次補正予算案を年内に編成し、通常国会冒頭に国会に提出して審議入り前に解散に踏み切り、選挙戦で補正予算の中身をアピールすることもできよう。
首相の選択肢にはそのほか、2021年度予算成立後の4月初めから7月23日の東京五輪開幕までと9月のパラリンピック閉幕以降のタイミングがある。ただ、連立を組む公明党が国政選挙並みに重視する東京都議選(7月22日任期満了)が控えているため、4月から7月の間は難しい。「公明党の嫌がるのが、国政選挙と都議選の間隔が短いことだ。菅さんは官房長官時代、創価学会とパイプのなかった安倍首相に代わって強い関係を築いてきた。公明党の意向は安倍さん以上に尊重されるだろう」と自民党関係者は指摘する。
その後はオリンピックとなるため、この時期でなくなるとパラリンピックが閉幕する9月5日以降となる。そうなると、9月末には党総裁の任期が満了になるので、その前に解散して勝利し、安倍前首相の言う「無投票再選」となるのか。あるいは、総裁選で再選を果たし、その勢いで衆院選に臨み本格政権をつくるのか。さらには、10月の任期満了選挙になるのかだろう。
一方、野党側も「年内解散はあり得る」として準備はしてきた。国民民主党からの合流組を含めて150人規模の最大野党となった立憲民主党は、9月16日の総理大臣指名投票で枝野幸男代表に投票するよう共産党の志位和夫委員長に要請。共産党もそれに応じて22年ぶりに他党の党首に投票した。これについて、志位委員長は記者会見で「野党共闘に向けた非常に重要な前進だった」と述べた。立憲と共産が連携して自民、公明に対峙する構図である。合流新党所属となった小沢一郎氏は9月21日の講演で「1年以内に政権を奪取する」と豪語したが、現実はハードルが高い。
立憲の有力な支持団体である連合が「共産党を含む野党共闘には与しない」との方針を発表したのである。立憲民主党が新党として再スタートしたわけだが、党名も代表も同じだ。連合が離れて共産がくっついてきても地方の組織化ができずいっこうに盛り上がらない。選挙のための互助会として国民の多くが冷ややかに見ているのは支持率の低さからも読み取れる。
自民党中堅は「小選挙区の調整はいくつか残っているが、それさえ克服できれば菅首相はいつ解散をしても勝てる」と自信を示した。12月5日までの国会会期だが、立憲など野党側は解散総選挙を念頭に置いて、11月中に開催される予算委員会集中審議で日本学術会議任命拒否問題などを声高に追及して攻勢を強めようが、菅首相を押し込むことは難しく得点を稼ぐには至らないものとみられる。