国家の有事「少子化加速」

令和4年 80万人切り現実化も
家庭軸の国家戦略策定を

深刻な合計特殊出生率1・3

日本は今、「少子化の加速」という国家の有事に直面している。これは国力の低下に直結する深刻な事態だ。政府は、「こども家庭庁」を来年4月に発足させ、経済財政運営の指針「骨太の方針」案に少子化対策を盛り込んでいるが危機感が足りない。従来の安定財源確保の強化策という面からのアプローチでは事態を打開できないのは明らかだ。政府が家庭政策の根本的な見直しをし、それを軸とした国家戦略・戦術を策定して、じっくりと取り組まなければ克服できないだろう。

厚生労働省は6月3日、人口動態統計を発表し、令和3年に生まれた子供の数(出生数)が81万1604人と6年連続で過去最少を更新したことを明らかにした。死亡数は戦後最多で出生数から死亡数を引いた自然減も過去最大の減少幅となった。第2次ベビーブーム時代の昭和48年(1973)には出生数が約210万人だったが、100万人を初めて割り約97万人になったのは平成28年(2016年)。90万人を下回ったのが令和元年(2019)だった。減少傾向はその後も続き、とうとう今年は81万人となり、今年の令和4年には80万人を切るのではないかとの推測もある。
国立社会保障・人口問題研究所は「80万人を切るのは令和12年」と予想しているが、それよりも8年も早い計算になる。それを裏付けるデータは、女性1人が生涯に産む子供の推定人数を示す「合計特殊出生率」だが、今年は1・3で、前年より0・03ポイント下回り、6年連続で低下した。この傾向が続けば、「希望出生率1・8」という政府の目標達成は絶望的だし、80万人切りも現実化してこよう。
若者世代の未婚化や晩婚化に加え、新型コロナウイルス禍により出産を遅らせたり、経済的な不安の拡大といった原因もあったろう。ただ、コロナ拡散が収まっても少子化の加速を止めることにはつながらないだろうし、減速させる要因にもならないというのが多くの専門家の一致した見方だ。
少子化および人口の減少は、国家の安全保障に直結する。少子化対策担当大臣の野田聖子氏は「他国から侵略されていることと同じだ」とし、「日本では2020年の1年間で約54万の人口が減ったが、これはほぼ鳥取県の人口と同じ。これが進行していくと、まず国民生活が脅かされる。労働人口が減るので、企業の競争力が低下する。消費者も減るので日本経済を支える内需が冷え込み、税収も減る。行政サービスの縮小や、社会保障の負担増という問題も予想されている。この『三重苦』だけでも国家有事だが、さらに深刻なダメージを受けるのが安全保障だ」と述べている。
野田大臣の見立てでは、自衛隊、海上保安庁、警察、消防という国民の生命・ 財産を守り、国の安全保障を担う組織のマンパワーも減少し、自衛隊員の定員割れにもつながっていくという。野田氏はこれを打開する効果的な手立てとして、子供政策の司令塔となる「こども家庭庁」の創設を挙げ、「子どもへの投資」をする国は出生率が上がると強調している。
「こども家庭庁」の設置法は今通常国会で成立、内閣府の外局として2023年4月に発足し、300人規模の体制がつくられる。専任閣僚を置き他省庁への「勧告権」を付与するもので、内閣府の子ども・子育て本部と厚生労働省の子ども家庭局を移管する。
もちろん、国が関与して子供に積極投資をし、「子どもが幸せな社会」 を実現すれば人口減少問題に有効となろう。だが、その幸せな社会像についてもっと切り込んで描かねば本当の解決策にはならない。
政府はまた、経済財政運営の指針「骨太の方針」案に少子化対策として「妊娠前から妊娠・出産、子育て期にわたる切れ目ない支援の充実」を掲げ、「社会・経済の参加者全員が連帯し、広く負担していく新たな枠組みについても検討する」との考えを示している。国民全体がこの危機を共有して対処していくことは大事だ。
しかし、それでも足りない根本要因がある。それは「子どもだけが幸せな社会」の実現を目指しているからだ。子供はもちろん、親も祖父母もともに幸せになれる社会の実現を追求していく理念をまず持つことが必要だ。政府の提言などは、子供と親といった家庭単位での見方が欠落している。「こども家庭庁」はもともと「子ども庁」と名付けられていたが、自民党内の保守派から「子供だけでなく子育て世帯への支援も重要」といった声や「子育てに対する家庭の役割を重視した名称にするのが望ましい」との要求が強まり「家庭」を盛り込む強い巻き返しがあった。
個人主義やLGBT(性的少数者)の権利を極端に強調した多様性の社会を作ろうとする風潮のある中で、家庭の意義と幸福論を強調した政策を柱に据えることは容易ではないかもしれない。しかし、子育ては大変だが、それ以上に子供の成長を味わえる幸福感は大きく尊いものであることを発信していくことも政府に求められる。親力、家庭力を実感した親は子供に対していいアドバイスができるし、子供がさらに子供(孫)を生みたい動機につながっていこう。今日の孫ゼロ問題解消にも効果があろう。そういう親になれるような学校教育が必要だし、それを指導できる教員も養成しなければならない。
政府は11月第3日曜日を「家族の日」、その前後各1週間を「家族の週間」と定めて、この期間を中心として家族に関する理解促進を図っているというが、その程度ではだめだ。出産・子育てを喜びとする文化をどう日本に根付かせるか。その国家戦略と戦術の策定こそ求められているのではないか。