韓国大統領の出口は刑務所の玄関

文在寅氏の「悲惨な末路」離脱?

政治をするということは、刑務所の塀の上を歩くようなものだ。
儒教風土の強い韓国では、とりわけその感を強くする。
大統領制という大きな権力を持つ大統領の求心力たるや、絶対王政とまではいかないまでも大きなパワーを持つ。
韓国大統領の末路が悲惨なのは、その絶大な権力の裏返しでもある。
初代大統領の李承晩氏は亡命を余儀なくされた。「漢江の奇跡」と呼ばれる韓国経済を高度成長の波に乗せた朴正煕氏は側近から銃で撃たれ暗殺された。以後は本人が投獄されるか親族が投獄された。刑務所を避けようとすれば、盧武鉉氏のように崖から飛び降り自殺するしかなかった。
全斗煥氏、盧泰愚氏は逮捕され、金泳三氏は次男が逮捕され、金大中氏は息子3人が逮捕された。
また李明博氏も逮捕され、朴正煕氏の娘朴槿恵氏も逮捕された。
ただ、今回退任した文在寅前大統領は驚愕の手で、その「悲惨な末路」という韓国大統領史の例外になるべく布石を打った。
文前大統領は与党が議会の多数を制していることを武器に、自らの保身のため検察の捜査権の全面的廃止を国会で通過させてしまったのだ。
この「検察捜査権完全剥奪法」で、検察ができることは令状の請求や公訴の提起、公判維持などに限られることになった。さらに検察が今進めている捜査も中断を余儀なくされる。
なお与党が法改正に着手したのは、3月9日の大統領選敗北が決まった後だった。次期大統領が決まった政権末期に強引に成立させたのは、文在寅政権関係者らに対する検察の捜査の封じ込めを図ったからだ。
ただ、文前大統領訴追の手立てが全く閉ざされたわけではない。
「検察捜査権完全剥奪法」で決まったのは、検察に捜査権があった6大犯罪の中で、公職者、選挙、防衛産業、大規模な事故の4つが警察に捜査権が移ることだ。
つまりは警察の尻さえたたけば、文前大統領訴追は可能となったということだ。
さっそく尹錫悦新政権は、警察高官人事を急いでいる。日本の警視監にあたる治安正監7人のうち、来年初めまでの任期が法的に保障されている1人を除く6人全員が交代を余儀なくされた。トップの治安総監(警察庁長官)は7月、任期を終え辞める。その後任候補となるのが治安正監だが、いずれも勇退という異例人事となった。これは尹政権が警察首脳部を、全く信頼していないことを反映した人事だ。
これまでの警察は文在寅政権側に立ち、検察とも厳しく対立してきた歴史がある。検察のトップだった尹錫悦大統領は、その対立関係のただ中にいたわけだから、警察の旧弊を打破するための手立ては、熟知している。
文政権と民主党が検察の捜査権を警察に移したのも、政権に近い警察なら手玉に取ることはた易いだろうと考えていたふしがある。しかし、警察の人事権は新政権が握る。いくら捜査権を検察から警察に移したところで、ごっそり人事を入れ替えれば、自分のポストを守るためにも変わらざるを得ないという事情が出てくる。
具体的に文在寅氏が訴追される可能性のある件は、「文在寅氏の知人が出馬した慶尚南道蔚山市長選に大統領府の介入」、「月城原発1号機の経済性を過小評価し、早期閉鎖に持ち込んだ政権幹部関与疑惑」、「文在寅氏が退任後の住居購入にあたって土地の用途を変更し巨額の利益を得た事件」、「文在寅大統領夫人の金正淑氏のドレス代が青瓦台の特殊活動費から支出された疑惑」などが列挙される。
ただ、尹政権がごり押しで強権発動となる見込みは今のところない。
議会は野党が多数を握るねじれ政権である以上、政権運営がまず優先されるからだ。
それでも、野党をけん制しバーゲニングパワーを身につけておくためにも、いつでも文前大統領訴追のカードを手にしておくことは政界に身を置く者のイロハだろう。