手放しで喜べない好調米経済

インフレと人手不足懸念材料

原油の高騰やロシア軍のウクライナ侵攻を受け、世界経済が減速傾向を強める中、米経済は比較的、堅調との見方が強まっている。
今年第一四半期(1─3月)の米経済は、プラスの予想に反してマイナスになったが、株式市場はほとんど反応しなかった。
その原因は、輸入が大きく伸びた一方で輸出が伸び悩んだことにあって、個人消費はしっかり増えて堅調だったからだ。
コロナ禍からの経済活動再開によって、飲食宿泊などが大きく伸びている。ようやくモノからサービスへと消費が着実に回復し始めていることが理解できる。
ただ、手放しで喜べる状況ではない。
主な懸念材料は3つある。
その1つは、エネルギー価格の上昇だ。平年に比べエネルギー価格は3割も上昇し、車社会を直撃している。国民はドライブの機会を減らし、ガソリン消費を減らす節約志向に拍車がかかっている。
2つ目は、空前の人手不足だ。平均賃金が前年より5%と大きく伸びているにも関わらず、働き手が見つからない状態だ。
コロナ感染ですべての労働者が市場に戻っていないことに加え、景気は悪くなく労働者の売り手市場になっている。
このためより高い賃金やよりよい労働条件を求めて、すぐ辞めてしまうジョブホッパーの急増で企業活動に支障が出ているのが実情だ。
3つ目は、物価の高騰、インフレ問題だ。エネルギーや原材料価格が高騰しているため、企業は販売価格を引き上げ利益を担保しようとしている。
消費者の目線に立てば、平均賃金が5%上昇しているといっても、物価上昇率はそれを上回る8・3%になっているので、実際の生活を圧迫している現実がある。
米国人家庭に現在の景況感を聞くアンケートでは、コロナ危機の最悪期の2022年3月から4月の状況より、5月の方が悪くなっている。それは所得水準に関係なく、すべて悪化している。また若者より55歳以上の年齢層の人々の悪化具合が顕著となっている。こうした消費者は今後、少しずつ貯蓄を取り崩して消費にあてざるを得ないわけで、節約志向の高まりが予想される。
こうして消費が冷え込んでくると、米経済が回らなくなる懸念が出てくる。
今は40年ぶりの高いインフレ状態で、ガソリンだけでなく幅広いサービスやモノの値段が上昇している。
ただ、経済専門家筋によると、インフレ率上昇のピークは過ぎつつあるとの指摘がある。それによると、これから徐々にインフレ率は下がり、年末には3%台にまで落ち着くと予想されると見る。
国際エネルギー価格を見ると、ロシアのウクライナ侵攻以降、天然ガスや原油価格は高くなったものの、最近はほぼ横ばい状態だ。
また銅や鉄、パナジウムなどの工業用原材料の価格も3月の高値水準から下落している。
原油や天然ガスなどロシア産エネルギーは、制裁を科した欧米以外の他の国が購入していることや、ロシアやウクライナと関係のないモノに関しては、経済制裁後、物価は安定しつつあると見ていい。
中国もゼロコロナ政策の手綱を緩めつつあり、ウクライナ情勢が今後大きく悪化しない限り、少しずつ米のインフレ率は下がるものと予想される。
なおFRBは3月から段階的に利上げをしているが、少々インフレ率が下がっても、その方向性は変わらない。というのもインフレ目標はあくまで2%であり、そのためには継続的な金融政策が求められるからだ。