死の淵の母にバンビ取り寄せ

安物自転車を必死に探す警官

1つは、バンビが大好きだった母親が死の淵をさまよう中、娘が本物の子鹿を届けた話。
もう1つは、1万円かそこらの安物ママチャリを必死に探した新任警察官の話。どちらも相手のためにすべての犠牲をいとわず、時間をおかず即実行しているところが心を打つ。
まず最初のバンビを病床の母に届けた娘は、豪州のメルボルンに住むリサ・マクドナルドさん。
終活の緩和ケアに入っていた母親はバンビが大好きで、部屋にはバンビ像を飾り、着衣はバンビのイラスト入りTシャツというスタイルだった。
そうした母親の見舞いに行くときは、家族も必ずバンビのTシャツを着て訪問した。それが母親への励ましであり応援歌だった。
その母親の容態が急変し、いつ旅立ってもおかしくない間際、娘リサさんは子供の誕生会などに動物配送サービスをしている農場があることを知る。
リサさんはさっそく、農場に電話し事情を話し、バンビの配送を頼む。
農場経営者は「明日にでも伺いましょう」と応じてくれたが、母親の容態が一層悪化し、次の日まで持つかどうか怪しい状態になった。リサさんがそのことを報告すると、農場経営者はすぐに子鹿を車に乗せ2時間半ほどかけ深夜、母親の病室を訪問した。
スマホで撮影しフェイスブックに投稿したその写真は世界中に拡散されていった。
そのスピード配送ぶりは、感動ものだが、我が国でも相手の窮状打開のため、粉骨砕身して自転車を配送した警察官がいた。
それは駐輪場から自転車が消えていたことで、母親が警察派出所に盗難届を出したのはいいが、受付の新任警察官がやたら細かいことを根ほり葉ほり聞き出そうと、供述調書を取るだけで1時間ほどを費やした。
ほとほと疲れ果て、廉価の1万円ほどの自転車で、色から材質、購入金額など聞き出そうとする新任警察官がうとましく思えたほどだった。
ところがその深夜、警察官が被害者宅を訪問。母親は供述調書疲れで夜間ジムで汗を流していた。警官の訪問に対応したのは、幼い娘1人だった。娘は深夜だったことから、玄関のカギを開けず、ドア越しで話を聞き出そうとした。
翌朝、娘と母親は2人して、警官の派出所を訪問。そこには自分の家の自転車があった。新任警官は、詳細な調書をとった後、直ちに近所を捜索し乗り捨てられていた自転車を発見することになったのだ。
盗難自転車を発見した警察官の責任感の強さに頭が下がる。無論、臨終の前に子鹿を届けるために車を飛ばした農業経営者の責任感の強さにもだ。