今月の永田町

低空飛行で衆院解散もできず

政権基盤弱体化の岸田政権

夏の参院選で大勝した岸田文雄首相だが、安倍晋三元首相の暗殺により政権基盤が急速に弱体化し、当面は低空飛行を余儀なくされる。事態打開のため衆院解散に踏み切れば敗北は必至で、首相交代説まで囁かれるようになった。岸田首相は来年の主要国首脳会議(G7サミット)を地元の広島で開催することを明らかにしているが、果たしてその時まで政権はもつのか、疑問視されている。

岸田首相は7月10日投開票の参院選で大勝すれば「黄金の3年間を手にし、自ら掲げる政策をじっくりと遂行できる」とさえ言われていた。ところが、政局はそれとまったく異なる展開となり、政権存続の危機に直面している。政権の屋台骨だった安倍元首相を失った自民党は、最大派閥・安倍派内の後継者争いが勃発し、分裂含みだ。

加えて、安倍元首相暗殺の山上徹也容疑者による「母親の高額献金した先が旧統一教会でその恨みから教会と関係のある安倍氏を狙った」との供述が、真偽かどうかも確認されないうちに奈良県警から早々と垂れ流され、マスコミの関心と追及の矛先が旧統一教会に向けられ、同教会との関連で自民党は〝防戦〟一方となっている。

マスコミ各社は、現在の旧統一教会の実態について、過去のデータと悪いイメージを持ち出し、教会批判の専門家や利害関係のある弁護士らのコメントばかりを使ってミスリードし、「悪」の団体とのレッテル張りをし続けた。教会と関係が深かった安倍元首相や自民党、とりわけ安倍派所属の国会議員を魔女狩り的に問題のある「悪い」議員として非難を浴びせ、世論誘導を続けているのである。

「単独犯なのか複数犯なのか、暗殺の背景が定かでない。安倍氏が最初に担ぎ込まれた奈良県立医科大学の福島教授による記者会見の内容と司法解剖した警察側の発表がまったく食い違っている。提出期限がとっくに切れている死亡診断書がいまだに書けないでいる。マスコミはなぜその真相に迫らないのか不思議だ」と自民党関係者は語る。

いずれにせよ、マスコミ報道は旧統一教会の関連団体にまでメスを入れて非難のオンパレードだ。それへの対処を急ぎ支持率低下を止めようと焦った岸田首相や茂木敏充・自民党幹事長は「旧統一教会との関係を断ち、その関連団体とも一切関係を持たない」と宣言。党所属国会議員へ旧統一教会との関係を点検するアンケート調査を実施し、以後、党の方針に従わない議員には「離党」勧告するとまで踏み切った発言を行うに至ったのだ。

一方の攻める野党側にも、立憲民主党の辻元清美参院議員はじめ、岡田克也幹事長、安住淳国対委員長、枝野幸男前代表や国民民主党、日本維新の会などに「関係のあった」議員のいたことが明らかにされた。「教会が与野党を超え、ここまで幅広く浸透しているとは思っていなかった。しかし、自民党との関係はズブズブだ」(野党関係者)などとし、犬猿の仲だった立憲民主と維新が「教会叩き」などで今国会に限り共闘することになった。共産党はもともと「反教会」の急先鋒となっている。

野党の第1のターゲットは、教会との接点が次々と明らかになっている山際大志郎経済再生担当相で、狙いは更迭だ。立憲民主の泉健太代表は「本人はもともと認識しているはずだ。バレなければいい。それが『統一教会脱却内閣』だとすれば、全くその責任は果たせていない。山際氏は『瀬戸際大臣』『後出し大臣』だ」などと皮肉を込めて批判。国民民主の玉木雄一郎代表も「山際氏は経済対策をまとめる責任者だ。自分の対応でいっぱいになれば、日本経済のことまで頭が回らなくなるのではないか」「大臣の任にあり続けるのは難しい」と指摘。共産党の志位和夫委員長も「徹底究明」を強調している。

野党側がもう一つの争点と見定めているのが一部の国民から批判の出た国葬問題だ。9月27日に行われた安倍元首相の国葬には、国内外から4200人が参列。海外から訪れた700人以上の賓客の中には、ハリス米副大統領やインドのモディ首相、オーストラリアのアルバニージー首相、フランスのサルコジ元大統領、英国のメイ元首相、台湾の蘇嘉全・前立法院長らがいた。会場近くで行われた一般献花には、3万人と推定される人が長蛇の列を作り、当初の終了予定時刻を3時間以上超えた午後7時半ごろまで行われるなど、国葬にふさわしい心のこもった葬儀となった。

しかし、野党側は、政府が開催決定前に国会に説明しなかったことなどを問題視して追及していく構えだ。岸田首相は10月3日の所信表明演説で「国民の厳しい声にも真摯に謙虚に丁寧に向き合っていく。厳しい意見を聞く姿勢にこそ『政治家岸田文雄』の原点があるとの初心を改めて肝に銘じる」と語ったが、政権支持率の低下を食い止められない首相の苦しい思いがにじみ出ていると言える。

日本テレビ(NNN)と読売新聞が10月1日、2日に行った世論調査によると、岸田内閣の支持率は45パーセントで政権発足以来、最低となった。前の月より5ポイント下がった。一方、「支持しない」は46パーセントと、5ポイント上がって最も高くなり、「支持する」を初めて上回った。毎日新聞と社会調査研究センターが9月の17、18の両日行った全国世論調査では、岸田内閣の支持率は29%で、前月調査の36%から7ポイント下落。前回調査でも前々回比で16ポイント減少しており、下落傾向が続いている。

こうしたことから、「政権は、しばらく低空飛行を続けるだろうが支持率挽回への有効策を打ち出せなければ立ち行かなくなるかもしれない」と語る自民党幹部は「衆院解散にも踏み切れず死に体内閣となり、首相交代しか選択肢がなくなることもあり得る」と語る。また、マスコミ関係者は「数の上では内閣不信任案を出されても与党多数で否決できるが、審議ストップなどにより、『追い込まれ解散』にもっていかれる危険性は否定できない」と指摘。同氏はまた、「山上容疑者の鑑定留置期限が11月末だったと思うが、もし複数犯だったり真犯人が他にいるとなると警察は犯人を取り逃がしたことになる。その責任は首相に及ぶ可能性があるのではないか」と続けた。つまり、「警察不手際解散」だ。

岸田首相は所信表明演説で経済、安全保障環境の悪化を指摘し、「国難に直面している」と危機感を示したが、自らの政権の危機をどう打開していくのか。視界不良の政権運営が当分続いていく見通しで、来年5月19日から21日まで首相の地元・広島で開催される予定のG7サミットに首相自身が参加できるかどうかも不透明になってきた。