「写ルンです」はなぜはやるのか

嘘偽りなくデジタル世代には新鮮

現在、高校生を中心としたハイティーンから20代のZ世代に人気なのが、フィルムのインスタントカメラだ。

彼らは生まれ落ちた時から、デジタル社会の申し子みたいな世代だから、そもそもフィルムカメラが存在していたこと自体が過去の歴史でしかない。

使うカメラはスマホかデジタルカメラ。だからこそフィルムカメラが新鮮に映る。

何よりフィルムカメラの真実性はパワーがある。

デジタルカメラやスマホで撮影した映像というのは、修正できるどころか、本来よりも美しく見せることができる加工技術もある。だからデジタル映像というのは、現実を素材にしてはいても仮想映像が添加されている可能性がありうるのだ。

その点、インスタントフィルムカメラの「写ルンです」や「チェキ」というのは、デジタルカメラのように1度撮影すれば、その後修正も加工もできない。また、現像するまで何が出てくるか分からないという不自由さがある。写真の文字通り、真実を写すことしかできないのだ。だから、ここでは作られた笑顔や美しさは一切通用しない。その場が本当に楽しかったのか、本当に美しかったのか、そうした事実をフィルムカメラは正直に映し出す迫力がある。

若者の消費ニーズをつかんでいるのは、昔の姿で再登場したインスタントフィルムカメラだけではない。昭和や平成の時代に流行ったものが、復刻商品などの形でよみがえっている。ビックリマンチョコやカップヌードルといった昭和に売られていた駄菓子や食品が人気を博している。

たまごっちも復活している人気商品の1つ。今の世代のゲームに比べるとモノクロで角ばった表示、小さな画面、単純な機能しかない。だが、若者にとっては、こうした不自由さが新鮮に映る。この不自由さを歓迎するというのは、昭和レトロと同じように、効率一辺倒の現状に反発するアナログ回帰の現象と共通するものだ。

アミューズメント施設でも埼玉県の西武遊園地が、根強い人気を保っている。施設の中には昭和を彷彿させる道幅が狭い商店街があり、青果店、鮮魚店、雑貨店など様々な店がひしめき合う。

店員も昭和の時代からタイムスリップしてきたような庶民的で世話好きな雰囲気が漂っていて、商店街全体に活気を呈している。これが40代以上の大人世代だけでなく、Z世代など昭和を知らない若者世代にも受けている。

大人世代は昔への郷愁、若者世代は昔へのタイムスリップによる非日常感を楽しんでいる。

昭和というのは、人間関係の温かみにあふれた古き良き時代の象徴だ。その点、令和の現代は閉塞感の強い時代となっている。

ネットやSNSとかデジタル社会では、監視の目も強く、人々の批判から逸脱しないことが日常的に求められている。また四六時中、パソコンやスマホで社会とつながるようになったために、息苦しさを感じることも少なくない。

こうした強制力がなかった昭和の時代に触れるのは、ほっとするのではないかと思われる。また効率的でないものへのあこがれもある。

生まれ落ちた時からスマホがありコンピューターがあるZ世代は、これらがすべて未体験だからデジタル前夜を楽しんでいるような感触もある。

今、当たり前のように使っている高機能のスマホ以前の、往年の不自由な環境を楽しんでいるようにも見受けられる。

いわばタワーマンションの住人が、山や川での大自然キャンプ生活が新鮮であるのと同じ構造だ。