懸念される9月の中露軍事演習
中国の台湾侵攻時、陽動作戦も

9月初旬、中露軍事演習ボストークが日本海やオホーツク海で行われた。

昨年10月には、10隻の軍事演習が中露の艦隊が日本を周回し、今年6月にも時差はあるものの中露の艦隊がともに我が国を回った。一番、懸念されるのは中国が台湾侵攻に出る時、陽動作戦としてロシア軍を使うことだ。

ロシア単独でも中露共同でも、北海道周辺で武力示威行動をとれば、自衛隊はそちらに兵力を割かざるを得なくなる。その分、我が国が主力を置いている南西諸島周辺にすきが生じることになる。

ただ中国の核心的利益になっている台湾に、ロシアはほとんど関心がない。それでやられたりしたら、ロシアにとってばかばかしい限りだ。

その意味では、台湾侵攻の陽動作戦には北朝鮮を使う可能性が高い。北は中国のダミーとして動くことに躊躇はない。

たとえば38度線を越えて韓国側領土に軍靴で押し入ってきたり、核実験をバンバンやるとか、衛星打ち上げ実験と称して大陸弾道弾ミサイルを飛ばしたりといった形で威嚇し、そちらに米軍を張り付けておく。そもそもロシアの思惑に沿う形で、ウクライナ東部のドネツク、ルガンスク独立を承認したのは北朝鮮だった。第一回目の駐露北朝鮮大使とドネツク・ルガンスク両人民共和国大使とのモスクワ会談も行われている。

その会談では朝鮮人労働者を送り込むことが話し合われた。北朝鮮は外貨が稼げるし、ドネツク・ルガンスクは真面目に働く労働者を確保できる。さらには露国営TVチャンネル1で北朝鮮軍10万人の派遣が表明され、ウクライナの最前線に投入されるという。さすがに北朝鮮兵士10万人が傭兵としてロシア・ウクライナ戦争の最前線に投入するということは考えにくく、大部分は工兵などが橋を造ったり後方支援に回ったりする可能性が高い。 

なお今回の中露軍事演習で目を引いたのが、ロシア海軍がオホーツク海で中国艦艇と共同演習を行ったことだ。

オホーツク海は、核兵器を積んだ戦略ミサイル原子力潜水艦(SSBN)を沈めておくロシア軍の聖域だ。 

ロシア軍が千島列島や北方領土周辺でミサイル配備など軍備強化に動いているのは、核戦略が絡んだオホーツク海の聖域を守る手立てを厚くしているためだ。

対米けん制という共通の政治的思惑があるとはいえ、その聖域に中国海軍を招き入れたことに、時代の大きな変化を感じる。ただ中露軍事演習は、米国けん制目的の戦略的協力でこそあれ、軍事における実務的連携を狙った戦術的レベルのものでは決してなかった。

近年30年を通して軍事費の大幅増額を続けてきた中国は、ロシアより軍事的優位の状況にあることは間違いがなく、世界第2位の経済力を含め主導権は北京が握っている。