加速する調理ロボット
労働力不足が推進力に
レストランでは少し前まで、ロボットが注文を取り配膳までこなした。
今ではそのロボットが、料理を調理する厨房まで進出するようになった。
調理ロボットが、パスタを茹でソースも作るし、ハンバーガーも作る。
こうした調理ロボット普及を後押ししているのは、労働力不足とそれに連動した労賃の高騰だ。
特に人手不足が顕著で人件費が高騰している米国で、調理ロボットは“市民権”を得るようになった。
厨房というのは結構、危険できつく過酷な労働という意味で、3K業務の1つに数えられる。
厨房には油があって、熱さによるやけどのリスクもあるし、加熱処理が多いため、暑さと湿気の多い過酷な労働環境だ。その意味では、そもそも厨房というのはロボット代替ニーズが高いところだ。
単に厳しい環境に耐え得るだけではなく、細かく多様な対応能力の高さも調理ロボットにとってはお手のものだ。
調理ロボットが、多様化する食のニーズに対応できるだけでなく、人では対応できない多様な個々人の好みに対応し、きめ細やかなサービスを実現していくことが可能となる。
たとえば、米国発ハンバーガーの調理ロボットは、無人で一個5分でハンバーガーを作ることが可能だ。
客がタブレット端末で好みのバーガーを注文すると、ソースなどはお客の好みに応じて調理される。ピクルスに玉ねぎ、チーズなど、直前に注文を出せる。だからこそ、とてもフレッシュで、その日の天候や湿度などに応じた時々の状況にぴったりの注文を出すことが可能となる。
肉もオーダーが入った直後に焼かれるので、焼き立て、作り立てというものが提供される。
しかも、ロボットを監督するのはトップクラスのシェフだ。有名シェフの技術をそのまま再現できるというのが売りになっている。
注文が入ってから作るハンバーガーとしては値段も安く、米では13、14㌦するところ、7、8㌦で食べられる。
このハンバーガーショップでは吉野家のような「おいしくて安く早い」が、売りになっている。
日本でも今年6月、上野駅に無人完全セルフ店で上野常磐ホーム店というのがオープンした。
ここでは、90秒で熱々のそばが出来上がる。
カリフォルニアのスタートアップで、エクスプレスラーメンやうどん、そばなど調理ロボットが稼働しているところは、国内で20カ所ぐらいに上る。
調理ロボットの利点は、多重作業を同時にこなすことだ。いわば鍋物を作りながらチャーハンを炒めたり、パスタをゆでるだけでなく、洗い物までやってしまう。
しかも調理ロボットは、熟練シェフの料理を再現できる。
チャーハン作りでは高火力でフライパンを振ってくれたり、調味料の自動供給とか調理具の自動洗浄機能が搭載されていたりして、盛り付けも任せられる驚きのロボットさえ存在する。
ただ弱点は、フロントエンドが寂しくなってしまうことだ。
レストランに人が来るのは、ただ胃袋を満たすためだけでなく、レストランの賑わいとか、料理をしているトントンといった音や雰囲気を楽しみにしている客が少なくない。
いわばわくわく感といった空気を期待する顧客に対しては、調理ロボットや接客ロボットがそうした雰囲気を打ち消してしまうリスクが存在する。
だからバックエンドで調理ロボットが稼働していても、人が笑顔で注文をとるといった一工夫が必要なこともある。
一方、調理ロボットの普及が、シェフなど調理人の働き口を奪うのではとの懸念があるものの、シェフや料理人の新たな働き先にもなることが指摘されている。調理ロボットを管理、運営していく業務が存在するからだ。
いわばシェフや料理人のスキル拡張として、ロボット活用が進んでいくことが想定される。
これはAI問題と同じで、人がやるべきところ、人がやらなくてもいいところをどう棲み分けるかだ。
感情労働の接客業務や盛り付けは人がやって、単純作業や過酷な肉体労働はロボットに任せるといった具体的な棲み分けが始まると一気に調理ロボットは市場を席捲しそうだ。