自己保身・政権延命への布石

国会会期中に衆院解散断行も

高揚感なき岸田内閣改造

岸田文雄首相が9月13日、内閣改造と自民党役員人事を行い、第2次岸田再改造内閣を発足させた。来年秋の総裁選で再選されるための布石であることは明らか。派閥均衡に配慮しつつ政権の枠組みを維持し基盤の安定を最優先した。そのため、高揚感のない地味な組閣となった。「変化を力にする内閣」と自ら命名したが、その力をどういう方向に向けるのかのベクトルが見えない。臨時国会は10月中旬に召集される予定で、経済対策の策定を最大の目玉にするが、国会会期中に衆院解散・総選挙に踏み切るのではないかと観測されている。

岸田首相は組閣後の夜の記者会見で「経済、社会、外交・安全保障の3つを政策の柱として、強固な実行力を持った閣僚を起用した」と表明した。中でも当面の最大の課題が「経済」であるとの認識で、10月中に経済対策を取りまとめるよう関係閣僚に指示した。

今回の人事の特徴は、官房長官をはじめ、財務相、経産相、経済安保相、デジタル相、国土交通相といった主要閣僚が留任し、党サイドも副総裁、幹事長、政調会長、国対委員長が続投したことから政権の安定を図ることが狙いで新鮮味のない印象だ。

ただ、首相としては5人の女性閣僚と初入閣の11人の起用に加え、親中派の親分格と批判されてきた林芳正外相を外し、週刊誌でスキャンダルを報じられている木原誠二官房副長官を閣外に出したことで内閣支持率はアップすると期待しているようだ。その首相が交代させるべきか否か迷ったのが茂木敏充幹事長の扱いだった。

「幹事長は目立ちたがり屋で、何でも自分の実績にしたがる。経済対策や少子化対策でもスタンドプレーが目立つ。首相を目指す意向も示しており、岸田首相にとっては目障りな存在だったろう」と自民党本部職員は語る。
首相が看板政策とした「次元の異なる少子化対策」に関連して、政府と擦り合わせをしないまま「財源はフランスの全国家族手当金庫が参考になる」「児童手当の所得制限をなくすべきだ」など相次いで勝手に発信してきた。しかし、第3派閥の茂木派(平成研究会)の長でもあるので、対応を間違えれば政権基盤を揺るがしかねない。切りたかったが切りにくかったと言うのが首相のホンネだったろう。しかし、政権の後ろ盾であり第2派閥の麻生派(志公会)会長の麻生太郎副総裁が続投を迫り、受け入れた経緯がある。

その代わり、茂木包囲網を作るという新たな手を打った。茂木派の中で、将来の総裁候補の有望株として成長してきた小渕優子氏を選対委員長に抜てきし、「選挙」を茂木、小渕両氏に託すことにしたのだ。2人を党4役に入れることで派閥がさらに2分化し、茂木氏に総裁選に出馬する意向があっても容易に派をまとめられなくなることを狙った。しかも、公明党との選挙協力の不安などから現有議席を維持できるか分からない次の衆院総選挙で、負ければ茂木派の責任、勝てば自分が指揮した結果にする打算も働いている。「問題がありそうなのは他派閥にやらせる」という「お公家集団」宏池会議員の狡猾さがここに潜んでいると言える。もう一つ抜け目のないのが、腹心の木原誠二氏を官邸から党に移し幹事長代理というポストにつけて茂木氏の目付け役にするという一手である。

「茂木包囲網だけでない。最大派閥の安倍派(清和政策研究会)に対してもしっかりと計算した」と自民党幹部は指摘する。安倍晋三元首相亡き後、後継会長を決められない安倍派は有力者「5人衆」(萩生田光一政調会長、松野博一官房長官、西村康稔経産相、世耕弘成参院幹事長、高木毅国対委員長)で運営している。突出した実力者が存在しない同派の最大の課題が会長を巡る争いに決着をつけることなのだ。そこで、首相は5人をすべて続投させてメンツを立たせたが内戦状態を維持するようにした。

先の総裁選で対決した高市早苗経済安全保障担当相や世論調査で人気度の高い河野太郎デジタル担当相も再び閣内に取り込んだ。その結果、仮に総裁選で争うことになっても政策面での戦いは抑制される。つまり、今回の内閣改造・党役員人事の肝は、来年秋以降も首相を続けるためのレールを敷くことにあった。自己保身、延命人事なのである。

ただ、エネルギー価格の暴騰、物価高をはじめとした経済状況の悪化やロシア、北朝鮮、中国などによる安全保障環境の急変などにより政権が一気に不安定化することはあり得る。そのため、首相は10月中旬に国会を召集し、同月中に総合経済対策を取りまとめるとともに、財源の裏付けとなる令和5年度補正予算案を編成する。そこで結論付けた具体的な数字を掲げ、11月から12月にかけての間に衆院解散を断行し国民の審判を仰ぐとの見方が強い。「だが、何のために解散するのか」と疑義を述べる与党関係者もいる。解散すれば国会での議論はストップする。それを犠牲にしてまで戦う選挙とは、結局は自分の政権基盤固めが第一なのではないかというのだ。

岸田首相には忘れてならない憲法改正に向けての公約がある。自分の総裁任期の来年9月までに実現しなければならないはずだ。逆算すると、今年の臨時国会中に改正原案を作成し、来年の通常国会中に発議し国民投票にかけなければ間に合わない。ところが、記者会見で語った「3本柱」の政策に入れず、自民党の改憲実現本部の事務総長で衆院憲法審査会与党筆頭理事の新藤義孝氏を経済再生担当相に引っこ抜き、アベノミクス批判が正体の新しい資本主義担当相に起用してしまった。初代宏池会会長の池田勇人元首相は、岸信介氏から政権を譲り受ける際、憲法改正を約束したが、政権につくと「憲法」には触れず、「国民所得倍増計画」を打ち出した。岸田首相の姿勢も宏池会らしいと言えば言えるが、国内外情勢はそれを許さない厳しい段階に入っている。改憲の方向性をしっかりと定め早急に国会での議論をまとめ上げるなどして対処しなければ、わが国の針路を誤まらせかねないことを肝に銘じるべきである。