今月の永田町

野党第一党の「中期目標」実現か

躍進・維新が自公と全面対決

馬場代表、公明とのすみ分け撤回

躍進を続ける日本維新の会に対して、与党の自民、公明両党が警戒感を強めている。維新は先の衆院選で、公明と一部選挙区をすみ分けして協力したが、次の衆院選ではそれを撤回すると発表。全小選挙区に候補者を擁立する考えも表明したことで、自公と全面対決することになった。崩れつつある自民の保守岩盤層の受け皿となり、支持率が上昇している維新の全国規模での基盤拡張は今も続いており、次期衆院選で野党第一党になるという同党の「中期目標」実現の可能性は高まっている。

公明党の支持母体である創価学会にとって、関西は「常勝関西」と呼ぶほど特別重要な地だ。特に、大阪は「常勝の本陣」とされ、衆院の4小選挙区は小選挙区制導入以来、公明が勝利してきた。前回の衆院選で公明は、大阪を発祥の地とし党勢を増してきた維新の党看板政策・大阪都構想に賛成するのと引き換えに、この4区には維新候補者を立てないとする「すみ分け方式」を成立させて4議席を死守した。ところが、6月25日、維新の馬場伸幸代表が「すみ分け撤回」を表明し、自党の候補者擁立を宣言したのである。

これに公明・創価学会が強烈な危機感を持ったのは当然だ。「公明の石井(啓一)幹事長が5月下旬、自民の茂木(敏充)幹事長に東京選挙区の候補者調整のもつれで『自公の信頼関係は地に落ちた』と激怒し、東京での協力関係の解消を一方的に宣告したが、8月下旬には両党のトップである岸田総裁(首相)と山口(那津男)公明代表が会談、早くも選挙協力の復活で合意した。関西を失うことのできない公明としては自民の協力が不可欠なので、突っ張ってばかりいられなくなった」(与党関係者)のだ。

このところの維新の伸長には目覚ましいものがある。昨年の参院選比例代表で、野党最多の8議席を獲得し、比例代表票は前回よりも約300万票伸ばして約785万票集めた。「800万票獲得」を目標に掲げた公明は約618万票にとどまり、組織力にかげりが見えている。

4月の統一地方選では、全国の自治体の首長と地方議員が非改選も含め、目標だった600人をはるかに超え774人に膨れ上がった。大阪では知事と市長のダブル選を制し、府、市の各議会で単独過半数を占めた。そのため、公明に頭を下げることなく維新単独で「大阪都構想」の推進が可能になったのである。東京では70人の擁立に対して67人が当選。新宿区、世田谷区、武蔵野市など11市区でトップ当選を果たした。神奈川県では2議席が25議席に、埼玉県ではゼロから5議席に増え41の道府県議会選挙の結果は、選挙前から倍増して124議席へと躍進したのである。

この勢いは、7月30日に投開票された仙台市議選(定数55)でも証明された。擁立した新人5人全員が当選したのだ。支持基盤の弱い東北地方への進出は次期衆院選に向けての「全国政党化」実現に弾みをつけている。「維新幹部が毎日のように出馬を希望する人と面接しているようで、適格かどうかの身体検査をするのが大変らしい」と公明党関係者は語る。

自民にとっても維新は脅威だ。岸田自民が性的少数者(LGBT)への理解増進法成立に先頭を切るなどリベラルに傾斜する影響で、故安倍晋三氏の築いてきた保守岩盤層が溶解しつつあり、維新が保守の受け皿になっている。つまり、自民が瘠せ維新が太る構図で、その傾向は次の選挙に直結することになるのだ。

先の衆院選の大阪小選挙区(19区)で、公明の4区(議席)を除く15小選挙区の議席をすべて維新に持っていかれ全敗した自民党本部は、「大阪刷新本部」を立ち上げ、6小選挙区支部長の猛反対を押し切ってまでして候補者を公募で選び直した。だが、選ばれた候補者の顔ぶれを見ても印象は弱い。茂木幹事長は「情熱と具体策をもったすばらしい候補たち」と言うが、維新を相手にどこまで通用するか早くも疑問の声が噴出している。

維新は結党10年を迎えた2022年3月27日、「中期経営計画」を発表、2022年7月の参院選で予算関連法案提出に必要な最低議員数である21議席以上を目指す短期目標①と、今年の統一地方選で600人以上の当選を目指す短期目標②、および中期目標として次期衆院選で野党第一党になることを掲げ、最終的に政権奪取を目指す戦略を明らかにした。すでに短期目標の①②はクリアし、中期目標の実現のため、289の全小選挙区に候補者を擁立する準備をしている。馬場代表は「立憲民主党がいても日本は良くならない。第1自民党と第2自民党との改革合戦が政治をよくする」とし、自民と全面対決する決意を明らかにしたのである。

「マスコミ各種が行った最近の世論調査の政党支持率では、いずれも立憲民主を抜いて維新が野党第一党となっている。次の衆院選で議席数においても野党第一党になる可能性は大きいだろう」と語る自民党関係者は、「安倍さん、菅(義偉)さんの時の自民は、維新とのパイプが太く対決ムードは避けられた。しかし、今の岸田、茂木ラインは、政策的に立憲や国民民主に接近している。維新とは関係が薄く、自公維連立政権の話などできないし、ましてや公明抜きの自民維新連合の可能性は不可だ」と語る。

5月のG7広島サミット直後の衆院解散に踏み切れなかった岸田首相は、今秋にも断行したい考えだとされる。「政権支持率はいっこうに上がらない。時間が経てばたつほど維新の全国的な基盤が強化され、選挙に不利になる」(政府関係者)だけに、首相は内閣改造、党役員人事を行って支持率アップへの環境づくりをし、解散のタイミングを懸命に探っている。