バルカンは再び火を噴く? 歩き出した「夢遊病者」

南カフカス地方で9月13日、アゼルバイジャン軍がナゴルノカラバフの停戦ラインを越えて発砲、アルメニア側は少なくとも49人が死亡したと発表。アゼルバイジャン国防省は同国兵や国境警備隊員ら計50人が死亡したとし双方で犠牲者は約100人に上った。アゼルバイジャン国防省は、アルメニア軍が「停戦に違反し、迫撃砲と大砲でケルバハルとラチン近くのアゼルバイジャン陣地を砲撃した」と発表した。

2年前の軍事衝突以降、ロシア軍が「停戦監視団」を置いていたもののウクライナ戦争で、手薄になった隙を突かれた格好だ。ロシア軍がウクライナ侵略戦争を始めて8カ月が過ぎようとしている中、戦場では押し返されつつある現状がある。そのロシア軍が場外でも、抑えが利かなくなっている模様だ。

南カフカス地方のアゼルバイジャンもアルメニアも、ソ連崩壊前まで旧ソ連邦国家だったが、強権の重石が消滅すると喧嘩が絶えなくなるのは歴史の必然ともいえる。

なお識者の中には、次はコソボかという声も聞かれるようになった。

岐阜県程度の広さのコソボはかつてセルビアの一自治州だったが、ユーゴスラビア解体の過程でコソボ紛争を経て独立した。ただセルビアや中国はコソボ独立を認めておらず、北大西洋条約機構(NATO)の介入がないと判断すれば、コソボ奪還に動く可能性がある。

ゲルマンやスラブなど多民族が群雄割拠するバルカンは、民族紛争が起きやすくオーストリア皇太子が、サラエボでセルビアの汎スラブ主義者に暗殺されたことで第一次大戦のきっかけとなった。その経緯はクリストファー・クラーク氏が書いた『夢遊病者たち』が詳しいが、誰もが世界大戦になど発展しないと思いながら、あれよあれよという間に小さな火種が燎原の火のように広がっていく様を、「夢遊病者の1人歩き」のようだったとの表現で描いた作品だ。

そのバルカンで再び硝煙が上がろうとしている。これが再び第三次世界大戦へとつながる「夢遊病者の1人歩き」となるのかどうか、見極める必要がある。