全国で相次ぐ用水路転落事故
新興住宅地など注意喚起必須

 用水路に転落して死亡する事故が全国で相次いでいる。警察庁によると死者は2015年から18年までの4年間で、合計270人に上る。平均すると毎年60人以上死亡している。

 都道府県別では最も死者が多かったのはこの4年間で、富山県で66人。新潟県21人、山形、岡山、佐賀県がそれぞれ16人。いわゆる農業県が多い。

 ただ首都圏も例外ではなく、昨年の5月1日には埼玉県春日部市で飲食店アルバイトの27歳の男性が、用水路にうつぶせに倒れて死亡しているのが発見されている。あごには強く打った傷が残っていた。

 実は日本は用水路大国だ。都市部の中心街では余り目立たないが、全国に毛細血管のように張り巡らされている。農水省が農地面積から推計したところ、全国の用水路の総延長は約40万キロ。これは地球10周分にあたる距離だ。

 その多くは道路との境に柵がない。鉄柵を作るには1キロ当たり1000万円の費用がかかるため、現実的には不可能だからだ。

 用水路の危険性はかねて指摘されてきた経緯があるものの、打つ手立ては限られているのが現状だ。

 用水路リスクが高まっている理由の1つは、農地の宅地化だ。後継者難で農地の宅地化が全国規模で進んでいる。田畑が住宅地に変わっても周辺の用水路はそのまま残っている。それで、引っ越してきた新住民が、よく分からないまま転落してしまう事故が多発するようになった。事故多発地域も農地が住宅地に変わったところが多い。

 2つには、気候変動がある。ゲリラ豪雨の増加で、道路が冠水すると用水路と境が分からなくなり、落ちてしまうというリスクが高まる。

 3つには、高齢化。2015年以後の用水路事故で、死亡した人の8割以上が高齢者だった。

 足腰の弱い高齢者は転びやすく、転んだ先に用水路があると危険度が高まる。

 気を付けないといけないのは、水深が浅い用水路でも死亡事故が起きていることだ。水深10㌢でも死亡事故が発生している。

 専門家によると転落した用水路の水深が浅いと、水路の底に頭を打ち気を失ってそのまま溺死してしまうリスクがあるという。

 岡山市や福岡県の柳川市などでは、市民の命を守るため危険と思われる用水路に鉄柵やガードレールなどを設置してはいる。だが、自治体が安全管理に動いている岡山市で4000キロメートル、梁川市で930キロメートルもの用水路がある。とても全部にこうした措置をとることは不可能だ。

 できることは危険を知らせる注意喚起となる。とりわけ農地を新興住宅地に変えたところの新住民を対象とした注意喚起が必須となる。