記者会見 1・21

霞ヶ関ファイル

森まさこ法務相

人質司法

 今朝は、閣議前に「統合イノベーション戦略推進会議(第6回)」及び「新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する関係閣僚会議」に出席いたしました。また、今朝の閣議において、法務省案件はございませんでした。続いて、私から2件報告がございます。

 1件目は、我が国の刑事司法制度に関する「Q&A」についてです。本日、法務省ホームページに、我が国の刑事司法制度に関する説明を「Q&A」の形で掲載します。我が国の刑事司法制度について批判的な論調があることを踏まえ、我が国の刑事司法制度が正しく理解されるように、「Q&A」を日本語及び英語で掲載するものです。本日配布しているとおり、Q&Aでは、「日本では、長期の身柄拘束が行われているのではないですか」とか、「日本の有罪率は99%を超えています。なぜそのような数値なのですか」といった質問に対する回答を分かりやすく記載しています。

 また、海外の方々に日本の刑事司法制度を御理解いただくためには、海外の主要メディアを通じて、丁寧に説明を行っていくことも重要であると考えております。例えば、英国のフィナンシャルタイムズの電子版にも、昨日付けで私の寄稿を掲載していただいたところです。今後とも、我が国の刑事司法制度が正しく理解されるよう努めてまいります。

 2件目は、逃亡事案を防止するための関係法令の整備に向けた法制審議会への諮問についてです。昨年来、保釈を取り消された被告人や保釈中の被告人等が逃亡する事案が発生しており、その中には、国外にまで逃亡したものも含まれています。本来、法律の定める手続に従って収容されるべき者が収容されず、あるいは、保釈中に公判に出頭しないで、逃亡に及ぶという事態は、あってはならないことであり、一たび、このような事案が発生すると、国民の皆様の間に多大な不安を生じさせたり、刑事司法作用に対する信頼を損なうこととなります。このような逃亡事案の発生を防止し、収容されるべき者の身柄を速やかに確保することは、安全・安心な社会を実現していく上で、極めて重要です。

 そこで、こうした実情等に鑑み、刑が確定した者や保釈中の被告人等の逃亡を防止するための方策や、身柄の収容を確実かつ迅速に行えるようにするための方策等について、幅広い観点から御議論いただくため、この度、関係する刑事法の整備について、来月、法制審議会に諮問することとしました。関係部局に対しては、そのための準備を急がせておりまして、スピード感を持って進めてまいります。

【記者】大臣は19日の日曜日に、ゴーン被告人が出国に使ったとみられる関西空港のプライベートジェット機専用施設を視察されたとのことですが、出入国時の検査態勢などを確認して、どのような所感をお持ちになりましたでしょうか。また、東京五輪・パラリンピックに向け、出入国の検査態勢について、特に強化しなければならないと思われた点がありましたら、お聞かせください。

【大臣】ゴーン被告人の逃亡方法について、様々な報道や情報がある中、1月14日の羽田空港のプライベートジェット機専用施設の視察に続いて、全国の国際空港の中でも、多くの外国人旅行者に利用されている関西空港を訪問したところです。

 先般、私から出入国在留管理庁に対して、出国手続のより一層の厳格化を指示したところですが、ビジネスジェット専用施設における出国手続の流れについても、その中に含まれております。そこで、関西空港においても、ビジネスジェット専用施設における出国手続の流れを確認させていただき、関係省庁と連携し、厳格な出国管理に努めているかどうかを確認してきたところです。

 私からは改めて、不法な出入国が行われないよう、関係省庁と連携しながら、今後も厳格な運用に努めるよう、現場職員に指示をしました。東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて、厳格な出入国管理と、円滑な出入国審査を高度な次元で両立していかなければなりませんので、今後も不断に検査態勢の見直しを行うとともに、関係省庁との緊密な連携を図ってまいる所存です。

【記者】民事訴訟のIT化の完全実施に向けて、昨日、内閣官房の関係省庁連絡会議で取りまとめ骨子が承認されたと伺いました。国際化を視野に「フェーズ2」以降の新たな制度に向けた環境整備について、大臣の所感や今後の方向性についてお伺いします。

【大臣】民事訴訟のIT化は、大臣に任命されたときからの課題に挙げておりまして、大臣訓示、年頭所感等でも申し上げております。

 昨日、御指摘のとおり、内閣官房に設置された「民事司法制度改革推進に関する関係府省庁連絡会議」において、取りまとめ骨子が承認されたことは承知しており、この取りまとめ骨子には、民事裁判のIT化、知財司法、国際仲裁など多岐にわたるテーマが取り上げられております。このうち、御指摘の民事裁判のIT化については、法務省の担当官が出席する「民事裁判手続等IT化研究会」において、昨年12月に最終報告書が取りまとめられました。

 法務大臣としましては、研究会の報告書が取りまとめられたことを受け、来月開催予定の法制審議会において、民事裁判手続のIT化の実現に向けた諮問を行いたいと考えております。法制審議会では、この報告書の内容も踏まえて、充実した調査審議が行われることを期待しております。法務省として、引き続き、最高裁判所などの関係機関と連携し、利用者の目線に立って迅速かつ効率的な民事裁判を実現できるよう、鋭意検討を進めてまいりたいと思います。

 私は大臣になる直前まで、平井卓也委員長の下で、自民党の「デジタル社会推進特別委員会」の副委員長を務めておりました。今日もデジタル社会について閣議前に、官邸で会議があったところでございますけれど、その中の一環として、民事裁判手続のIT化、デジタル化を進めて、裁判がより国民にとって使いやすい制度になるよう、努力していきたいと思います。

【記者】昨日、国会が開会しました。今国会、様々なテーマがありますが、先ほどありましたゴーン被告人の件も、野党から質問があると思います。大臣として今国会にどのように臨まれるのか、所感をお願いいたします。

【大臣】法務行政についての課題も多岐にわたりますけれど、国会において丁寧かつ真摯に御説明を行ってまいり、国会審議を通じて国民の皆様の理解を得て、法務行政をしっかりと前に進めてまいりたいと思います。

【記者】ゴーン被告人について伺います。先ほど逃亡の件についておっしゃっていましたが、法務省としてレバノン政府にゴーン被告人の強制送還を要求なさったのでしょうか。

【大臣】ゴーン被告人についてのレバノン政府との関係について、御質問をいただきましたけれど、個別の刑事手続の具体的内容に関わる事柄でございますので、お答えを差し控えざるを得ないところです。

 一般論として申し上げますと、逃亡した犯罪人の引渡しについては、相互主義の保証の下で、逃亡犯罪人の引渡しを請求することは可能ですが、相互主義の保証の可否や、相手国の国内法の法整備について、慎重に検討する必要がございます。

【記者】先ほどの法制審議会の関係でお尋ねします。保釈と収容の在り方についてですが、この中で例えばGPSの装着ですとか、そういったところにも踏み込んだ議論を大臣としては望まれているの

でしょうか。また、刑事法と先ほどお話があったと思うのですが、刑法と刑訴などの改正と考えてよろしいでしょうか。

【大臣】現在法制審議会の2月の諮問について、事務方に準備を急がせているところでございますが、内容の詳細はまだ確定をしておりません。いずれにしても、法制審議会において、GPSの発信機を装着して、逃亡を防止するという制度を含めて、保釈中の被告人等の逃亡防止の方策全体について、幅広い観点から御議論いただきたいと考えております。それから、刑法、刑事訴訟法については、含むものです。

【記者】大臣は先日の記者会見で、弊社記者の質問に、「被告人の逮捕、勾留、保釈については不必要な身柄拘束が行われないように適正に行われている。人質司法との批判は全く当たらない」というふうにお答えになりましたけれども、私たちは取材を通じて、検察に10時間に及び拘束されたとか、7時間も取調べが続いたとか、検察の取調べに耐えかねて3人が自殺を図ったなどの証言を得ています。先日、国際人権団体のヒューマン・ライツ・ウォッチが年次報告書で、日本の人質司法を批判しましたけれども、こういう状況の中でも、大臣はあくまでも日本に人質司法はないというふうにお考えなのでしょうか。

【大臣】人質司法という言葉が何を指すのかということについては、必ずしもはっきりしないわけでございますが、今お示しになった拘束時間の長さでありますとか、その個々の制度につきましては、国際的な刑事司法制度の比較の中でどうかと申しますと、国によって日本よりも長い国もありますし、ただ、それぞれの国がその拘束時間の制度一つではなくて、全般的な制度の中でバランスを取りながら成り立っているというふうに思います。

 我が国においては、被疑者、被告人の身体拘束については、国際的な比較の中では、より厳格な制度が定まっておりまして、法律によって厳格な要件及び手続が定められております。例えば、令状によらない逮捕は極めて限定的に認めており、幅広く無令状逮捕が認められ、身体拘束がされる国とは異なった制度になっております。そして、その拘束するときの令状というのは、捜査機関とは別の裁判官が要件を検討するということになっており、人権に配慮をしているというふうに考えております。

 また、勾留についてですけれども、同じく捜査機関から独立した裁判官による審査を経て行われておりまして、その内容は具体的な犯罪の嫌疑を前提に、罪証隠滅や逃亡のおそれがある場合等に限って認められております。そして、その勾留の裁判に対して、被疑者は不服申立

をすることができるようになっており、

被告人の勾留についてもこれと同様です。そして、罪証隠滅のおそれがある場合など、除外事由に当たらない限り、保釈が許可される仕組みとなっております。

 このように、我が国の刑事司法制度は被疑者、被告人の人権保障に十分に配慮した、適切なものになっているというふうに考えております。また、今日、法務省のホームページに掲載されますQ&Aも併せて御覧いただければと思います。ただ、人質司法という単語の定義は、読む人によっていろいろになると思いますし、批判は当たらないというふうに思っておりますが、毎回記者会見等の場で申し上げておりますとおり、完璧な制度で、一片も見直しの必要がないとまでは言っておりません。我が国の制度も、海外の制度も、どの国の制度も、やはりその時々の時代の流れや、皆様の御指摘を踏まえて、見直しをしていくという努力は、不断に行っていかなければならないと思っております。

 ただ、国際的に、一方的に、日本の刑事司法制度だけが非常に前時代的であるという御批判は当たらないというふうに申し上げておきます。

【記者】今のお話について一言、1月7日に東京地検特捜部の副部長が、ゴーン氏の妻のキャロル夫人の逮捕状を取った際に、「妻のキャロル容疑者と自由に面会できないことを非人道的だとする同情的な論調もあり、強く是正する必要があると考えた」と述べているわけですけれど、国内の現場からもこのような批判が上がっているのですが、これについてどのようにお考えでしょうか。

【大臣】捜査機関のコメントについては、法務大臣からお答えすることはできかねますので、差し控えさせていただきたいと思います。

情報戦に泥縄の対応

記者コラム

 法務省は1月21日、ホームページに「国内外からの様々なご指摘やご疑問にお答えします」と、我が国の刑事司法制度についての説明を掲載した。レバノンに逃亡した日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告が自己の不法行為を正当化するために、我が国に仕掛ける情報戦に対応してのことだが、逃走を許した後では、泥縄の誹りは免れまい。

 被疑者や被告人に自白を強要するため、長期間勾留し保釈を容易に認めないとして、我が国の司法に海外メディアは「人質司法」のレッテルを貼っているが、これは2018年11月のゴーン被告逮捕後、続いてきたことだ。背景には、ゴーン被告と弁護団が仕掛けた情報戦があった。

 検察当局の強い抵抗があったにもかかわらず、裁判所が同被告の保釈を認めたのは、海外の評価を意識し過ぎたからだった。しかし、こうした信念のない対応が裏目に出て、同被告に逃走の隙を与えることになった。

 一方、グローバル化した社会では、自国の司法制度に対する海外からの信頼を勝ち得ておくことの重要性が増すのも事実。「桃李もの言わざれども下自ら蹊(こみち)を成す」と「史記」にあるがごとく、とかく日本人は正しいことを行っていれば黙っていても「理解される」と、他者を信頼し対応するきらいがあるが、国際社会ではこの姿勢は通用しない。

 その意味からも、ゴーン被告との情報戦に勝つためにも、我が国の司法制度についての情報発信は極めて重要である。

 今回のホームページでは、たとえば有罪率が「99%」を超えることについて海外から批判があることを意識し、検察官が起訴する割合いは「37%」にとどまっていることを説明した。つまり、証拠がそろい、有罪の可能性が高い事件のみを起訴している結果として、有罪率が高くなっているのだ。

 こうした内容を、日本語のほか、海外を意識して英語でも発信したのは一歩前進だ。しかし、ゴーン被告が持つ情報ネットワークを考えると、フランス語やアラビア語での情報発信も必要だろう。この情報戦には、国の威信がかかっている。