国の守りとは国民の決意 新たな通貨基盤で経済再生

参政党代表

松田学氏に聞く

 参政党は7月の参院選比例代表で「得票率2%」をクリアし、公職選挙法上の政党要件を満たした。同選挙で参政党は、選挙区で約202万票(得票率約3・8%)、比例区で約177万票(同3・3%)を獲得した。参加型民主主義を積極的に訴え、既に行き詰まりを示している戦後システムや戦後国際秩序からの脱却を提唱する参政党代表の松田学氏に、その具体的な内実を聞いた。
(聞き手=徳田ひとみ本誌論説委員)

──参政党に一定数の支持が集まった背景は、なんだったのでしょうか?
既成政党に対するしらけというかあきらめがあって、投票したい政党がないと多くの国民が思っている。いまの野党はだらしないし、しかたがないから消去法で自民党に入れているという人も多い。そのような中で、「だから自分たちで作ってみた」を標榜する手作り型の政党に期待が集まった。

また、今回の選挙で特に感じたのは、日本人がもともと持っているDNAを私たちが呼び覚ましたことだった。これは健全なナショナリズムであり、それには子供たちまでが強く共鳴してくれた。「日本の良いところをたくさん言ってくれて勇気を与えてくれた、まだ選挙権はないけれど、私たちが将来、しっかり引き継いでいきたい」と言った内容のお手紙を、子供たちから街頭でたくさんいただいた。

戦前戦中を知るご高齢の方も、ようやく本当のことを言ってくれる政党が現れたと言って駆け寄ってくれた。アジアを植民地から解放して人種差別のない平等な国際秩序を創ることが大東亜戦争の目的だった。戦後の自虐史観教育の中で、日本は戦争犯罪国とばかり国民は思わされてきたが、それが戦勝国によるプロパガンダであり、日本人洗脳政策だったことが徐々に明らかにされている。

最近のコロナもそうだし、中国による土地買収もそうだが、どうもグローバルなパワーによって日本の国や私たちの生活や健康まで脅かされているのではないか。欧米では健康面から消費者が拒むような食品を食べさせられているのではないか。海外の製薬利権のために副作用のリスクの高いワクチンを打たされているのではないか。何かがおかしい…そんな気付きが国民の間に広がっていることを実感した。メディアが報道しない本当のことを参政党は国民のために懸命に伝えているという意味でも共感を受けた。

日本はこのままで大丈夫なのか、自分たちの子供にちゃんとした日本を残せないのではないかと、普通のお母さんたちまで危惧して参政党に集まってくる。それは国の安全保障だけでなく、食の問題や健康の問題だったりする。
今、世界的に健全なナショナリズムが広がっている。イギリスがEU(欧州連合)から脱退し、米国ではトランプが出てきてアメリカファーストを言って支持された。イタリアもそうだし、ドイツでも「ドイツのための選択肢」の支持が広がったり、フランスでも4月の大統領決戦投票で国民連合党首のルペンさんが40%以上、得票した。

グローバル勢力が支配するメディアは、それを極右とかポピュリズムとのレッテル貼りをしているが、実態は決してそうではない。世界を席巻するグローバリズムに対抗してナショナリズムを大切にしようという意識は、欧米各国で国民の中に広がっている。今回の「参政党現象」は、それが日本でも起こっていることと密接に関係していると思う。

──国民が日本人としての誇りを持つという意識が欠落していたように思います。
もう1つ付け加えると、国民が既成政党に魅力を感じなくなっている背景には、今の政治家たちの仕事が国政よりも選挙だということがある。それが有権者に見透かされている。政策も選挙に勝つために議員たちの都合で公約として策定され、党員たちはそれに従わされている。私は参院選で、選挙で当選することが仕事の職業政治家は要らないと訴えた。

日本にも党員たちが自分たちの思いで政策を創り、それを担う政治家を候補者として選んで、選挙は党員たちが担うという、党員が主役の「近代型政党」が必要だという思いで、神谷宗幣氏たちと結党したのが参政党だった。政治家は選挙ではなく、国政に専念する。英米にはそうした政党の仕組みがあるが、日本には草の根民主主義の政党がなかった。

参政党が伸びれば、戦後初めての歴史的な変化が日本の民主主義に起こると考えた。

──政治は自分たちとはかけ離れたもの、自分たちがどんなにもがいてもたったの1票、そんなものが有効であるわけがないと諦め、投票に行かない若者も多いと言われていました。しかし参政党の演説動画をユーチューブで拝見しましたが、日本の国の在り方を皆が自分の事として考える機運を高められましたね。演説会には、多くのファンが集まり、まるでスターのおっかけみたいな現象も起きました。
私のファンもずいぶん増えました。

──参政党代表に就任された経緯は?
本当は3議席ぐらいとるつもりだった。神谷宗幣氏が比例で得票数1位になるというのは予想されていた。彼は事務局長をやりたいし、彼でないと事務局長はできない。彼が全国の支部を作り、今も支部は増えている。いずれ、衆議院の小選挙区と同じ数の300近い支部ができることになると思う。

しかし、国政政党となれば、やらないといけないことは山のようにある。彼は国政はできるだけ他の当選議員に担ってもらい、自分は事務局長と思ってきたが、当選したのは彼1人だけだった。そこで役割分担をしないと回らないということになり、私を党を代表する顔として立てて、彼が国会議員以外にも事務局長の仕事に注力できる体制を作った。私には国政経験もあるし、国政レベルの政策は自分がずっと携わってきたことでもあるので、代表を引き受けることになった。

──バブル経済崩壊後、わが国の経済は「失われた10年」のみならず「失われた20年、30年」と低空飛行してきました。「失われた40年」にしない為の手立てはあるのでしょうか?
バブル経済崩壊後の90年代から、日本はある意味、米国から第二の経済占領を受けたようなものだった。GHQの下での財閥解体、農地解放、内務省解体に相当するのが、株式持ち合いの解消、市場開放、大蔵省解体だったともいえる。ソ連が消滅して日本が金融を中心にすごい力を持つようになって、米国にとって脅威になったことが1つあった。

その中で米国がとりわけ力を入れたのが金融だった。私は当時、大蔵省にいたので見えていたのだが、世界中のマネーを米国中心に回していくことが彼らの世界戦略になっていた。日本には国民が汗水流して働いて築き上げた膨大な貯蓄があった。これをウォール街がマネージできるようにすることは、彼らの戦略の中心にあった。

それに待ったをかけた大蔵省を、日本のメディアや政治などを動かして彼らは解体に持っていった。そうして自国の都合の良いように他国の体制を変えていくのは、米国の常套手段でもある。そのような流れの中で、「構造改革」は日本を買収しやすい国にしていった。

日本はウォール街やグローバル資本の草刈り場になり、米国流の株主資本主義のもとで日本は30年にわたり賃金が上がらないという珍しい国になった。他方で著しく増えてきたのが、株主への配当財源となる利益剰余金だった。グローバリズムのもとで、日本が本来持っている国力が衰退してきたのが平成の30年だった。
対外純資産残高を見ると、日本は世界第一位を30年以上も続けている。これは世界で一番、世界にお金を供給している国が日本だということを意味する。他方で米国は、対外純債務は2000兆円の累積赤字国だ。それでも経済成長しているのは米国の方だ。

債権国である日本がお金を持っているのに、これが海外に出ていき、海外を成長させ豊かにしている。自分たちが蓄えた資産にふさわしい生活水準と経済的豊かさを日本人は享受できていない。これはお金の回り方が悪いからだ。

なぜそうなったのか。日本人が蓄えた資産を、国内のマネーフローとして活用できていない。2100年には人口が半減する日本国内では成長期待が低下し、企業は余剰資金を海外に運用し、国内の設備投資や賃金に回さない。そのもとでは金融政策にも限界がある。

だから、本格的な積極財政に転じて国内に力強いマネー循環を生み出さないと、国力の衰退に歯止めがかからず、失われた40年どころではなくなるかもしれない。
ただ、政策当局は1000兆円にのぼる国債発行残高を前に、国債増発による積極財政には簡単には踏み切れないできた。現実に、いずれ現在の異常な超低金利ではなくなったときには、巨額の国債残高は経済に様々な悪さをするし、社会的な歪みも拡大させかねないなど、さまざまな問題がある。国債が累増するだけで「出口」がない政策は財務省も日銀も絶対に採らないことは、自らが政策当局にいたことがあるからよく知っている。

私の松田プランと言うのは、この出口を創ることで積極財政への転換を可能にする政策だ。日銀は金融緩和で国債を購入し、既に500兆円以上、国債残高の半分以上を持っている。これはチャンスだ。日銀が持っている国債を、政府発行のデジタル円で償還する。

デジタル円を使いたいと思う国民は、銀行で両替することでこれを取得する。日銀は自らが持つ国債が償還されることで資産として保有することになるデジタル円を銀行に売却する。そうすると、異常に拡大している日銀のバランスシートが縮小する。そして、その分、国債はお金に変わっていく。

中国はデジタル人民元を発行し始め、米国もデジタルドルの検討を始めている。ブロックチェーン上で発行、流通するデジタル法定通貨は世界の流れになる。

日本では日銀ではなく政府が発行したら、政府はマイナンバーで国民の個人情報をビッグデータとして持っているので、デジタル円をいろいろなサービスと結び付けられる。そうすれば、あなたはこういうサービスを受けられますよという情報とデジタル円が一体となった情報付きマネーとして、これまでになく便利な新しい通貨が誕生する。

これを日本が世界初で作る。国民にとっては将来、税金で返さなければならなかった国債がなくなるだけでなく、それが通貨として回ることになる。そうした仕組みを想定できるようになれば、国債が減っていく道筋が描かれるので、国債増発への道筋ができ、国や国民にとって必要なところにどんどん予算を回す積極財政ができるようになる。

現在は政府の歳出のうち公共事業だけが国債発行対象で、他は財政法で本来は禁じられている赤字国債となってしまうが、将来世代に資産として残せるものは実物資産だけではない。知的資産である科学技術では米中に比べて基礎研究におカネが十分に回っていない。

人材も国にとって大事な資産だ。教育など人的資本への投資だって将来世代に残る未来への資産投資である。国防もそうだ。防衛費をGDP比2%にする財源はどうするのか。現状では、将来、資産になるべき財政資金は、社会保障費に吸い取られて回っていない。そちらの財源にもっと国債を発行して、積極的に資金を投入していくことが必要だ。

──2月の北京オリンピックでお披露目となったデジタル人民元を、どう見ておられるのでしょうか。
デジタル人民元そのものよりも私が恐れているのは、デジタル人民元の基盤にもなるブロックチェーンについて、中国がその世界共通基盤を運営し始めたことだ。

これまでがインターネット革命の数十年の時代だったとすれば、これからの数十年は、ブロックチェーンがあらゆる社会の仕組みやサービスの基盤となるという意味で、ブロックチェーン革命の時代になっていく。

インターネットは単なる通信手段だが、電子データを改ざん不可能な形で管理するだけでなく、手続きや契約を自動化する「スマートコントラクト」でさまざまなイノベーションが起こり、それ自体が経済的な価値を持つトークン(代用貨幣)でユーザーがいろいろなサービスを享受することになるのがブロックチェーンの仕組みだ。

その共通基盤を中国が運営し始めた。これは世界覇権を狙う中国の最終兵器だと言われている。まだ理解している人は多くないが、私はこれが最大の脅威になると思っている。このブロックチェーンの共通基盤の上に、それが様々なサービス提供にとって便利だからということで、世界中のサービスやデジタル通貨が乗ってくる可能性がある。

──人口も14億人と世界一多いし、米ドルを超えて力を持つ可能性があるということですね。
新興国や途上国では、預金口座を持っていない人が多数いる。だが、みんなスマホを持っている。そのスマホを使ってどんな少額でも一瞬で海外にも送金ができて、手数料がタダとなれば、便利だからということで、中国の影響力の強い国からデジタル人民元が使われ始める可能性がある。

もし、このデジタル人民元や、それとつながる電子マネーを、便利だからと、私たち日本人が使うようになると、私たちの個人情報は中国に抜かれてしまうし、国を守れなくなる。中国がブロックチェーンの世界共通基盤を運営すれば、中国人民銀行がデジタルドルやデジタルユーロ、デジタル円を発行できるようになるかもしれないと言う人もいる。それでは通貨主権も守れないだろう。

だから、それに巻き込まれないよう、日本は日本独自の国産ブロックチェーンの共通基盤を作るというのが喫緊の課題だ。

現在、これまでのGAFAなどのプラットフォーマーが支配するデジタル基盤ではなく、真に自律分散型の「Web3・0」という新たな流れも台頭しようとしている。私は、これを日本の国内共通基盤として発展させ、その上に官民の多種多様なブロックチェーンコミュニティーが花開く姿をめざしている。

松田プランのデジタル円も、その基盤の上で発行できればと考えている。

──昔の人民元は無力でしたが、現在では国際的にも凄く力を持つようになっています。
昔は国家の信用で通貨が受け取られたが、これからは便利かどうかで決まってくる。情報機能やサービスと結びついた通貨へと、通貨の概念自体が歴史的変化を遂げることになる。その基盤を中国が握ってしまうと、我々日本人の活動が全部、中国に握られてしまうことになりかねない。

──恐ろしいことですね。
ですから、日本人にとってはもっと便利な、こっちの方を使いたいと思えるようなデジタル円と、その基盤を国産で創る必要がある。

──農業は国家を支える土台です。参政党の農業政策をお聞かせください。
日本人にあった健康によい食材が大事だと思っている。国産の良い食材をできるだけ食べていただくことが食料自給率を上げ、食料安全保障にもつながると考えている。

戦後、日本は食料を米国に依存するようになった。戦後、食生活を洋風化させられたが、こんなに急激に食生活を変えた民族は、歴史上ない。結局、米国のグローバル食料利権から日本は足元を見られて、欧米の消費者が食べなくなったようなものまで食べている。

対策の1つとして、参政党は、農家と契約して直接販売したいと考えている。そのための販売ルートを作ってみたい。

そもそも日本は、米国や豪州に比べ、農家一戸当たりの農地が狭いので、競争しても対抗できるはずがない。いくら生産性を高めても限界がある。だから、公的な介入によって農村の共同体を守っていかなければならない。政府は農業に対し、本格的に予算を投入していく必要がある。そのためにも松田プランで、財源を生んでいくことが大事だ。

良い食材だと高くつく。良い食材を買うために、米国のように、消費者に助成をする政策も考えられるし、何といっても地域振興は農業が基本となる。兼業農家とかいろいろいらっしゃるが、地域コミュニティーの中に農業はある。

リタイア組が、定年後は農業をやってもいいという人がいるだろうし、若い人でも生きがいとして農業に従事したい人もいるだろう。それらをまとめる農業コミュニティーを全国に展開できるようにしていく。

大規模化して利益を求める農業ではなく、質の良い食材を供給しようとする農業だ。消費者に良い食材を買ってもらうための政府の援助が、農家と消費者の両方に対して必要だ。

──農家を縛る種苗法もかなり厳しいものになっています。
グローバルな穀物商社に支配されているからだ。特許を大事にしようと言っているが、その特許はグローバルな連中が握ってしまっている。

──小麦も薬品も依存性があるものを輸出し、我々はそれを輸入し、恒常的に摂取しているとも言われていますが。
食品添加物をたくさん入れて、おいしいものを安く売る。米国では成長ホルモン入りの牛肉を消費者が警戒しているが、日本にはどんどん入っているとも聞く。結局、むしばまれているのは日本人の身体だということになる。安く買っても健康を損なえば、高いものについてしまう。自由競争だけでは決して消費者の利益にならない。

──国が賢く支援する必要がありますね。
農家の実入りは本当に少ない。ここを政府が財政的に保護しないと成り立たない。これを食料安全保障として考えないといけない。他国は安全保障の中核に食料を入れている。食料を輸出することで、他の国に影響も与えられるし、いざというときに、自分の国も守ることができる。

日本には世界で一番恵まれた土壌と水と空気がある。その国土を活かすというのが、本当の保守の思想だと思う。

──私は日本人の心、サイレントマジョリティーの素晴らしさに触れることが出来たのは2012年の6月のことでした。
前年の11年に、東日本大震災に見舞われ、日本中が辛く苦しい日々を送っていた秋に、国交25周年を迎えたブータン王国の両陛下が国賓として来日されましたが、その翌年6月にブータンの歴史あるお寺が焼失してしまいました。
その悲しい事件をニュースで知った全国の多くの人達から、領事館に寄付の申し出が殺到しました。振り込みのメッセージには「去年はお2人の姿をテレビで観て励まされた」「沈んだ心を癒し希望を与えてくれた」「今度は私達が助ける番だ、お礼をしたい」また1口1000円を振り込んだ方から「来月また給料が出たら送ります」等、普段知ることがない多くの日本の方達の真心に触れて、感動のあまり涙が止まりませんでした。日本人の魂というか善良な心、他者を思いやる優しさに、日本はまだ大丈夫だ素晴らしい国だと実感しました。

われわれ参政党は「大和魂を取り戻そう」と言っている。

──教育も重要です。周りを見渡しても日本人としての誇りを持てない日本人が、少なからずいます。
グローバリズムというのは「今だけ金だけ自分だけ」だが、本来の日本人はその正反対だ。

──助け合うことは、昔から日本人は常にしていましたね。米作りなどの人手の要る仕事は周りの人たちと助け合わなければ成り立たなかった。
そういう価値観が人類全体で必要になってくる。日本が世界の文明をリードする時代が来ると、私はいつも言っている。

──軍事大国化する中国、核を手放さない北朝鮮、戦争を始めたロシアと我が国の周辺国家の脅威が高まっています。北東アジアの安全保障を揺るがしかねない軍事シナリオの展開をどう見通されますか。また、わが国はどう対処すべきなのでしょうか?
3点に分けて話したい。

1つは日本をとりまいている状況だが、今回、経済制裁で日本はG7(主要7カ国)と一緒になってロシアを完全に敵国に回した。日本は中国・北朝鮮・ロシアという「核保有国三兄弟」がすぐ隣にいるという世界で一番、危ない国になった。

中国の人民解放軍が昨年、ユーチューブで、「台湾有事で日本が手を出したら日本を核攻撃する」と流したが、米国では大問題になっても、日本では報道されなかったそうだ。日本の主要都市は、中国の核ミサイルの標的として照準を定められている。東京が核攻撃されたら数分で完全に崩壊するというリアルな現実がある。

現在、「自由で開かれたインド太平洋」に欧州まで加わってきた。中国の暴挙を抑え込もうとして、世界の地政学が大きく変わっている。そういう中で日本はどういう位置にあるのかを考えないといけない。

昔、当時の西ドイツに住んでいたことがあったが、その時は米ソ冷戦構造のもとで、西ドイツが「ヨーロッパ最前線」と言われていた。核ミサイルが丁度、配備された時期だったが、日本は今、米中対立のもとで「アジア最前線」として、当時の西ドイツと同じような状況にある。しかも、「自由で開かれたインド太平洋」の中で、日本が一番、「弱い脇腹」になっている。日本がしっかりした核戦略を持たないと、他の西側の自由主義国家にとって迷惑になるとも言われているそうだ。

日本の核戦略は、現実から突き付けられた課題となっている。

もう1つの現実は、武力というのは昔は戦争するための手段だったが、今は戦争をしないための手段になっているということだ。「やられたらやり返す」ということがあるからやられない。戦争のためではなく、平和を維持するために保有するのが、今の武力だ。頭をそういう風に切り替えないといけない。

2番目に、国防の基本は国を守る「国民の決意」にあるということだ。今、中国の「静かなる侵略」というのは豪州だけでなく、むしろ我が国の方に対してこそ行われている。土地や企業の買収もそうだ。そこで、ちょっと待てよといいたい。確かに中国に売ればキャッシュが手に入り、コロナで疲弊した地方の中小零細企業は助かるかもしれない。武力によらず、日常生活や経済活動において受ける侵略だからこそ、一人一人の国民が国を守るという決意を持たないと国は守れない。

参政党はこのリアリズムを踏まえ、国を守る決意を含めた国民合意を作っていこうとしている。「創憲」といって、日本人の手で戦後初めて憲法そのものを書きあげる。「改憲」より「創憲」だというのは、それが、日本が自国の国益を守り、どのような国づくりをしていくのか、できるだけ多くの国民に考えていただく契機となるからだ。

その中で避けて通れないのが、条文上、自分の国を守るための交戦権をも否定している憲法第9条2項をどうするかだ。自衛のための武力行使は国家主権の根本だ。いかなる国もその権利は保有しているが、日本だけは憲法で自ら否定している。

また、日本が核攻撃を受けたら、日本が撃ち返すことをしなくていいのか、米国に頼ってばかりでいいのかという問題もある。中国は米国向けICBM(大陸間弾道ミサイル)を保有するようになっており、米国としても自国が中国から核の報復を受ける危険をおかしてまでも、日本のために中国を核ミサイルで報復してくれるとは考えにくいかもしれない。

その時、日本は自分で自分の国を核兵器に対して守らねばならない。1つの考え方として、核アレルギーの強い日本には核兵器を国内に持ち込むことは困難であっても、SLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)なら、遠い太平洋から撃ち返すという選択肢もあるかもしれない。これも国民合意が得られるかどうか、議論を尽くさねばならない課題だろう。

当面、どうするかというのが第3番目だ。それは「政治家の決意」だ。「敵基地攻撃能力じゃなくて反撃能力だ」とか、そんな議論をしている場合ではない。「やられたらやり返す」ことができる状況はつくらねばならないし、防衛費GDP2%を「5年以内に」と言っているが、2%にするのは来年でも良いぐらいだ。

それぐらい差し迫っている問題だ。財源はどうするかという問題だが、国債を発行すればいい。そのためにも松田プランはある。
先だって安倍元首相は暗殺されたが、それまで安倍さんの存在自体が日本を守っていた側面がある。それががたがたと壊れている。問われているのは政治家の決意だ。

もっと根本的なことを言うと、戦争はなぜ起こるのか議論しようというのが参政党だ。1つは軍事利権がある。アフガニスタンが終わって武器が売れない。グローバリストたちはプーチンをおびき出してウクライナ戦争に持ち込んだ。次のマーケットはどこか。ペロシ下院議長は台湾に飛んだ。これから台湾でも武器は売れる。さらに日本はGDP2%まで軍事費を増やすと言ってくれている。

もう1つはグローバル資本だ。もともとロシアの天然ガスや石油はグローバル資本が握っていたが、プーチンが国営化した。これを自分たちの手に取り戻すという狙いもある。グローバル勢力がバックにいることに、我々は注目したいと思っている。

敵はグローバリズム全体主義だ。われわれ国民はまとまってこれと戦わないといけない。敵は国内分断工作を不断に仕掛けてくる。世論戦、情報戦もそうだ。安倍氏国葬儀に対する反対意見の盛り上がりで日本は「分断」などと報道されたが、国際社会の中では恥ずかしいことだった。日本国民はテレビメディアを信じやすく、日本には簡単に政治まで操作されてしまうという脆弱性がある。だからこそ、国を守るという国民意識は重要だ。

参政党は各国のナショナリズム勢力と連携しながら、軍事だけでなく、さまざまな国際利権を握っているほんの少しの人々の利益のために圧倒的多数の世界の人々が奉仕している構造を突き崩していくことが大事だと考えている。それが究極的には世界平和につながるのではないか。

──松田先生はチェロ奏者でもあられます。
私は「政治はハーモニーだ」と言ってきた。対立を煽るだけではなく、調和が大事だ。特に今の日本はそうではないか。参政党は「世界に大調和を生み出す」ということを基本理念として掲げている政党だ。

音楽は人間と人間のコミュニケーションツールの1つだ。かつて、政治家として街頭演説をやるようになってから、相手がどう反応しているのかが直感的に分かるようになった。そうした経験をした上で改めて人前で音楽を奏でてみると、相手が自分の音楽をどう受け止めているのかも、直感的に感じられるようになった。これなんだと思った。このように、政治と音楽には共通項がある。

衆議院議員時代、しばしば地元でサロンコンサートを開催した。ピアニストである私の妻がピアノを弾いて、時には、ヨーロッパでオペラ歌手をしている私の長女が歌う。最後に私がチェロを弾いて、演説をする。すると共鳴の土俵が出来上がっていて、言葉がすんなり入っていく。

政治と音楽は別のものではなく、政治そのものが我々の日常生活の中にある。そうした営みを通じて政治を生活に引き寄せるというのが参政党の方針でもある。

──素敵ですね。音楽をたしなむ政治家として尊敬している方はいらっしゃいますか?
作曲家としては、私が一番尊敬しているのはバッハだ。バッハは、フルート奏者でもあったプロイセン国王のフリードリッヒ二世から旋律を与えられ、それに基づいて「音楽の捧げ物」という大曲を作曲した。

ドボルザークはオーストリアの終身上院議員だった。ポーランド独立運動に力を尽くし、その初代首相に就任したパデレフスキは、高名なピアニストでショパンの全集を作っている。20世紀では、西ドイツのシュミット首相はピアノを弾いた。

安倍元首相も、ピアノ演奏初公開の時、私は東京文化会館で聴いた。ご本人が弾くはずだったが、総選挙の公示日と重なって行けなくなり、収録した動画の公開だった。安倍元首相の「花は咲く」のピアノ演奏は、被災地に対する思いがあふれていた。それは政治家の百の演説、千の言葉よりはるかに、被災地に対する思いに満ちていた。

その時、つくづく音楽というものが伝える力は大きいと思った。

参政党も音楽活動の場を作っていきたいと思っている。

まつだ まなぶ

1981年東京大学卒、同年大蔵省入省、内閣審議官、本省課長、東京医科歯科大学教授、郵貯簡保管理機構理事等を経て、2010年国政進出のため財務省を退官、2012年日本維新の会より衆議院議員に当選、同党国会議員団副幹事長、衆院内閣委員会理事、次世代の党政調会長代理等を歴任。その後、東京大学大学院客員教授を経て、松田政策研究所代表として言論、発信活動を展開。現在は参政党代表。

【聞き手プロフィール】

とくだ ひとみ
1970年3月、日本女子大学文学部社会福祉科卒業。1977年4月、徳田塾主宰。2002年、経済団体日本経営者同友会代表理事に就任。2006年、NPO国連友好協会代表理事に就任。2018年、アセアン協会代表理事就任。2010年から2019年まで在東京ブータン王国名誉総領事。本誌論説委員。