サンマリノ共和国 マンリオ・カデロ大使に聞く
日本の「当たり前」が新鮮!

 イタリア半島北部に位置するサンマリノ共和国の歴史は古く、紀元以来1700年以上続く世界最古の共和国だ。そのサンマリノの駐日大使として長く赴任するマンリオ・カデロ氏は「自由と平和を愛し、今日まで独立国であり続けており、日本と深いところでつながることができる」と確信しているという。

(聞き手=徳田ひとみ本誌論説委員)

 ──海外に行くと日本の良さを改めて実感したりするものですが、駐日大使154人の代表である「駐日外交団長」のカデロ大使は、日本への造詣が深く、たくさんの著書で日本の良さを発信してくださっています。

 外国人が訪日して驚くのは、日本の道路にゴミがほとんどないことです。どこに行ってもきれいです。神社の参道は、まったくゴミがない最も美しい道です。

 世界の大都市には、ゴミがない美しい地区はあるものの、ダウンタウンや繁華街の道路には平気でゴミが捨てられている都市も少なくないです。

 そのゴミに対する意識の違いは、どこにあるのかというと私は、日本の清潔感の根底に神道精神が息づいていると思います。穢れを払うというのは、神道の精神です。神社に参拝する時の手水など、何ごとも清めてから行います。祭りにも必ず身を清めて参加します。

 美しく整え、清潔であることが日本では「当たり前」なのです。

 ──我が国の子ども達も、日本の良さを当たり前と思って暮らしています。私はある国の名誉総領事を九年間務めていましたが、訪ねてきた子供たちに「日本に生まれて来たあなた達が一番幸せよ」とよく話したものです。よその国では、食べ者が充分になく、病気にかかっても治療を受けられない、勉強したくても学校に行けない子ども達がたくさんいることを伝えます。自分たちが恵まれた環境にあることを自覚し、感謝して生きて行くことは、子ども達の人生にとって大切だと思います。

 そういうことですね。

 それから若い人たちは、アメリカが格好いいと思っている人が少なくありません。

 無論、米国にはいいところはありますが、世界で一番犯罪が多いのも米国です。

 ショップリフティング(万引き)とか殺人事件にしても発生率は世界ナンバー1の国になっています。こんなに犯罪が多い国は他にありません。

 米国の刑務所には人があふれていますし、金を積めば快適な環境で過ごせるプライベート(民営)刑務所があるのも米国です。資産家の犯罪者などが服役する時、極悪人と一緒の刑務所ではなく、もう少し安心して服役できるシステムがあります。こうしたシステムは、平等思想が強い欧州にはありません。

 悪いことをしても金を払ったら、入る刑務所のレベルをアップできるというのはいかにも米国らしいところです。

 ──20世紀は戦いの世紀だったと言われていますが、21世紀は平和の世紀にできるのでしょうか?

 女性が多いことは、平和と幸福の源です。一方、男性が多いと喧嘩が多くなります。

 なぜ日本は治安がいいかというと、人口に占める女性の割合が多いからだと私は思います。人口の52%は女性です。だから平和が保たれやすいんですよ。 

 私はダイビングが好きで世界の海に出かけます。グアムとサイパンにも訪れました。同じほどの面積だが、グアムには軍人がいるから、女性1人に対して平均100人の男性がいる計算です。一方、サイパンは軍隊がないから、男性1人に対して、100人の女性となります。

 サイパンは女性が夜の海岸を歩いても問題がありません。一方、グアムは犯罪が多いのです。

 男女比のバランスで見れば、インドは女性が2000万人足りないし、中国も2200万人足りません。

 女性が多いのは日本のすばらしいところですが、日本人は気がついていないようです。

 何よりひとつ大切なことがあります。世界中にはさまざまな宗教がありますが、どれもシンボルは男性。キリスト、アラー、マホメット、ブッダみんな男性です。

 でも、日本の神道は「」が主神で女性神です。

 人間は誰しも女性から生まれます。だから、女神を称えることはとても論理的で、とても深い意味を持っています。21世紀を平和の世紀にするためにも、日本が果たすべき役割は大きなものがあると思います。

 さらに神道は、山や川など自然現象を敬い、八百万の神を見出す多神教の宗教です。国家精神の基本に神道を置く日本という国と日本人は、世界的に見てもエコロジカルで平和的な民族です。世界中に神道の哲学が伝わったなら、私はもっと平和に近づけると思います。

 なお平和の島サイパンには香取神社があります。きれいない神社で、まだ活躍しています。

 ──サンマリノ共和国にも日本の神社ができました。その経緯は?

 サンマリノ神社建設のきっかけは、2011年に東日本大震災があったからです。この時、子供1100人を含む2万人以上というたくさんの人がなくなりました。

 世界中から日本赤十字を通して、すごい金額の寄付が集まりました。

 その時、欧州に日本の神社を作りたいと思いました。日本サンマリノ友好協会はあるが神社はありませんでした。

 神社というのは日本の一番古いシンボルです。日の丸や君が代より古いものです。けれども欧州には、神社が1つもないのです。

 欧州には日本人が50万7000人暮らしています。それでも神社が1つもありません。

 だからメモリアル神社を作りましょうとなった。

 伊勢の職人さんを紹介して頂いて、設計と見積もりをお願いし、資金を集めて分割で払いました。

 神社は釘1本使ってはいけない格式がある伝統建築です。そうした技術は日本は世界一です。

 私は伊勢神宮の式年遷宮にでかけていって、びっくりしたことがあります。

 外国人は5人だけで大使は私だけでした。本当に感動しました。

 外で5時間、じっとしていました。無論、冷房はありません。それだけに、昔に戻ったみたいでした。

 森に座らないといけないから、心配していたのは虫のことでした、虫が一杯いるだろうと思って、ウナコーワを持っていきました。

 しかし、虫は1匹も飛んで来ることはなかったです。

 5時間もいて、蚊に一度も刺されることがありませんでした。

 これは奇跡に近いです。

 時たま、フクロウがホーホーと鳴いていました。実に神秘的な光景でした。

 魂が浄化されるような感じでした。この感動は一生忘れません。 

 日本に宮司は全国に2万2000人いますが、日本で初めて女性宮司が生まれたのは1981年のことでした。

 仏教が渡来する前、神道は女性宮司を認めていました。巫女も同様です。

 しかし、仏教が到来して、女子に生理があるからと認めませんでした。女性に生理があるのは自然なことです。それが今は大丈夫となりました。女性宮司は全体の一割を占めています。

 僧侶は全国で33万人存在します。

 なお、寺は全国で7万5000、神社は8万ほどあります。

 ──そのような伝統を私共はもっと知り、支援すべきだと思います。

 神道は結婚式や新築時の地鎮祭などで呼ばれることが多いです。子供が生まれる時もそうです。

 日本人は西洋式で結婚式をあげがちですが、伝統的な神道結婚式は本当に素晴らしい。

 私は仕事をしながら宮司をやっている人を知っていますが、サンマリノの政治家みたいです。サンマリノには60人の政治家からなる「大評議会」というものがありますが、みんな別に自分の仕事を持っている。政治家専門じゃない。弁護士、大学の先生、小学校の先生、会社の社長、税理士、会計士、もろもろです。サンマリノでは定職を持ち、その上で政治家になって国民に奉仕するのが政治風土です。

 なお、イタリアでは確定申告の際、税金の0・08%がキリスト教会の支援に使われています。

 神社は日本人の心のシンボルです。縄文時代から続く日本の哲学が詰まっているように思います。

 そうした尊敬すべき日本の文化を、サンマリノから欧州に、さらに世界に広めていくことはとても意義があると思います。

 ──日本人としての誇りと自信を持つことが大切だと改めて思いました。有難うございました。最後に日本そして日本人へ、大使からの一言をお聴かせください。

 世界に通用する日本人になってほしいと思う。

 日米は戦争したけれど、米と仲良くなった日本人はすばらしい。何より米のベストフレンドは日本しかないです。

 それと日本人にもっとサンマリノを訪れて欲しいです。その国土は東京の世田谷区程度で、人口は約3万6千人が暮らす、世界で5番目に小さな国です。

 現在はイタリアの中にすっぽりと収まっていますが、実はサンマリノ共和国の方が歴史はずっと古く、紀元301年以来1700年以上続く世界最古の共和国です。

 彼らは山の断崖に沿って築いた石造りの要塞を中心に、小さな国土を広げず、周囲と争うことなく暮らしてきました。

 自由と平和を愛し、今日まで独立国であり続けており、日本と深いところでつながることができると期待しています。

マンリオ・カデロ大使