国政に出張るなかれ! 松井市長

日本維新の会を問う 特別取材班

 おかしな政党があったものである。他ならぬ、日本維新の会のことである。この政党はこれまでいろいろ変遷を繰り返してきたが、先刻行われた参議院選において今の党としての在り方が定着した。さて、それはどんな在り方なのか?

共同代表ってなに?

 この政党の代表というべきか、実質の顔となっているのは、松井一郎大阪市長である。共同代表は、片山虎之助参議院議員である。

 これだけでも、実におかしな有り様だ。大阪市長という地方自治体の首長が参議院議員を押しのけるようにして、全国区の政党の顔になっているのだから。この

ような在り方はかつてあった験しはない。

 この政党の綱領、基本理念を改めて見てみよう。

日本維新の会綱領

 我が国は今、国際的な都市間競争の中、多くの分野で停滞あるいは弱体化している。国内的には地方分権、地域再生が叫ばれて久しいが、未だ地方は活力を取り戻せずにいる。人口減少と少子化、高齢化が同時に進行し、地方の住民は地方消滅の不安さえ抱いている。この不安を解消し、国家を再生させるためには、首都圏一極集中から多極分散型(道州制)へ移行させ、地方を再生させることが不可欠である。しかるに、既存政党は全て地方分権に積極的ではない。

 私たちは、地方から国の形を変えることを目的に日本維新の会を設立する。日本維新の会は、東京の本部を頂点とするピラミッド形の既存政党とは全く異なる組織形態をもち、既存の中央集権型政党とは本質的に異なる地方分権型政党である。地方の議員や首長がダイレクトに国の意思決定に参画し、役割分担しながら分権を進める。日本維新の会は、国家と地域の自立、再生のため、日本が抱える本質的な問題の解決に取り組む。

 ウーン、大きな見地からもの申していることはよくわかるのだが、ふと振り返るとこの政党の代表は、大阪市長なのである。

 もちろん、大阪市長という立場で国政というか、国家のことを語るなかれ、とは言わないが、市長として大阪市の行政に専念することが第一義ではないのか、こんな素朴な疑問がこの綱領を熟読していると湧いてくるのだ。松井氏本人は、口が裂けても、『大阪市を蔑ろにして、国家について考える!』、などとは言わないだろうが、それにしても、この政党が述べる論点が大所高所にあることが気になる。

 それは次の基本政策を見ると、その懸念がより濃厚になるのだ。

基本政策

 一 憲法を改正し、首相公選制、衆参統合一院制、憲法裁判所を導入

 地方自治体が国家の意思決定に関与できる新しい仕組みを創設

 二 地方分権

 大阪都構想、大阪副首都化、中央集権と東京一極集中の打破、道州制を実現

 三 既得権と戦う成長戦略

 規制緩和や労働市場の流動化によって産業構造を転換

 四 小さな行政機構

 自助、共助、公助の役割分担の明確化

供給者サイドへの税投入よりも消費者サイドへの直接の税投入を重視

 五 受益と負担の公平

 受益と負担の公平を確保する税制度や持続可能な社会保障制度を構築

 六 現役世代の活性化

 現役世代と女性の社会参画を支援し、世代間の協力と信頼の関係を再構築

 七 機会平等

 国民全体に開かれた社会を実現し、教育と就労の機会の平等を保障

 八 法の支配

 「法の支配」「経済的自由主義」「民主主義」の価値観を共有する諸国と連帯

現実的な外交・安全保障政策を展開し世界平和に貢献

 国際紛争解決手段として国際司法裁判所等を積極的に活用

 二項で、大阪都構想などというのが申し訳程度に入っているが、あとは憲法改正であるとか、規制緩和、あるいは、国際紛争解決などという文言が並んでいる。

 これら綱領であるとか基本政策を見れば見るほど、大阪市民はこれで納得しているのか、と不安すらおぼえるのだ。なにしろ大阪市長ですからね、市長ともあろう立場で、市政をかたわらに置いて、やれ、「改憲!」、やれ、「国際紛争解決」だのとメディアを通じて発信されても、「それもそれやが、うちらのことは大丈夫やろか?」、ということにならざるを得ない。それはどうにも抗いようのない人情というものである。大阪市民は、決して、改憲や国際紛争解決に走り回ってもらうために、市長選で、松井氏に投票したわけではないだろう。

 もっと足下を見てくれへんか?市長さんよ!、これ、市民の偽らざる声である。

勤務中に送別会準備で処分検討
大阪府庁

 大阪府の前の総務部長が六月に退職し、堺市の副市長に就任したことに合わせ、府の職員が送別会を開くため、勤務時間中に職場のパソコンを使って同僚に参加を呼びかけていたことが分かった。府は職務専念義務に違反する可能性があるとして関係者の処分などを検討している。(二〇一九年七月二七日  ライブドアニュース速報)

二三〇〇回職場抜けだし喫煙
大阪府の64歳男性職員を訓戒処分

 大阪府の職員が勤務中に二三〇〇回あまり職場から抜け出し、たばこを吸っていたとして処分を受けました。

 大阪府の財務部の男性職員(六四)は九年以上にわたり、勤めている府税事務所を一日に二回、それぞれ一〇分程度抜け出し近くのコンビニ前などで喫煙していたということです。府は勤務日数などから「抜け出し喫煙」があわせて二三一八回、二五八時間に上ると算出していて、この職員を訓戒処分にしました。男性職員は「少しくらいならいいと思った」と話しているということです。(二〇一九年六月一二日 朝日放送)

 ご覧の通り、今夏まで大阪府知事を務めていた松井氏傘下の大阪府庁内でもこんなことがそれこそ日常茶飯のように起きているのだ。お粗末としか言いようがない。トップだった知事が、国政ばかりに目を向けているから、つまり本業を片手間で弄んでいるように見えるから、先の記事のように本業の時間なのに二三〇〇回も煙草を吸いに抜け出すようなことを職員がする、いや、してもかまわないだろう、と勘違いしてしまうのではないか。これはあながち飛躍した論理ではなかろう。トップの思いが敏感に下に伝達されるのは世の常である。

 それにもまして奇妙なのは、日本維新の会に所属する国政議員である。特に共同代表の片山虎之助氏などは、一地方行政体の首長が党の代表として思いのまま振る舞うこの事態にどのような見解をお持ちなのかハッキリお伺いしたいものだ。

 共同代表として維新の国会での発言の場を増やされるべきかと考える。この状態に異論を唱えない所属議員の考えも伺いたいものだ。これではまるで松井独裁ではないか。

 片山氏と言えば、小泉内閣の時代には総務大臣として国家の中枢にいて、豪腕を振るった経歴の持ち主。その片山氏は、今、共同とは言え、大阪市長代表の政党のなかでその発言は多くない。多くの国民は市長の下にいると思っているのが、残念ながら現状である。忸怩たる思いはないのか、と勝手に想像してしまうほどである。これは他の国会議員も同様で、こういうのをまさに本末転倒というのだ。

 最後に、松井代表のメッセージを掲載しておこう。本末転倒という言葉の意味をもう一度噛みしめながら読んでみていただきたい。

 しがらみにとらわれず改革を進めることのできる政党。それが日本維新の会です。大企業に支えられている自民党や大労働組合、官公労に支持される民進党に、今を変えることは出来ません。今の仕組みを変えないことには、少子高齢化、人口減少社会を乗り切ることはできません。日本維新の会とともにこの国のかたちを変え、日本の未来を切り拓いて行きましょう。

 なお次号には、政党助成金問題を含めた取材記事を掲載する。(次号に続く)